その青は還る 完結

 次の日。俺は自宅の椅子に座り、胡座をかいて、煙草を口にしたまま、ジッポを手にしていた。膝に肘をつき、頬杖をついてから、ジッポの蓋を開け、火を点けてみた。おそらく、どこかの店で購入し、オイルも入れて貰ったのだろう。すぐに火が点いて、そのまま煙草へ近づけた。

 短く吸って、深く吐き出すと、口元が緩みそうになった。思わずまた煙草を口にして、吸ってるうちに、どこからともなく雨の音が聞こえた。少しその音を頭の中で遊ばせていると、視線の先に開け放った窓があった。そこで体勢を変えて、腰を上げ、窓辺に向かった。

 そこから見える景色は何の変哲もなかったが、あちらこちらに水たまりができていて、車が通り過ぎていくと、軽い水しぶきが上がった。そこで、なぜか俺は瞬きを繰り返した。窓辺に手を掛けたまま、空を見上げると、鉛色の雲が広がっていた。そのうちに風も強く吹きだして、張り巡らされた電線が揺れて弛んでいた。

 本格的に降り始める前に、買い出しをしようと決めて、窓を閉めた直後だった。

 どこかで思いきり地面が叩かれ、微かに部屋が震えた。窓の外を見ると、遠くで閃光が瞬く。空を裂くように、何度も音が鳴っていた。しばらく止みそうもなくて、結局どこにも行けなくなった。

 すでに仕事は降りてるし、家ですることと言えば、作曲するくらいしかない。そこで、俺は踵を返して、再び椅子に向かい、腰を下ろした。目の前のPCを操作し、片手でヘッドフォンを耳に当てる。いくつものファイルから適当な物をクリックすると、懐かしい曲と歌声が流れてきた。

 その時、俺は当時の思い出よりも先に、あの子の言葉を思い浮かべていた。

 探していた。この曲を……?

 ジッポを手にしながら、蓋を開けたり、閉めたりを繰り返した。

 初めての給料で買った。こんな俺に……。

 だが、CDは買えなかった。

 曲の終わりと共に、何かを残して、音は消え去っていった。

 ただ、俺は気づいていた。認めるには何もかもが足りなかった。

おもむろに、買ったばかりの万年筆を手にし、五線譜を前に、音を並べていった。夢中で書き出すうちに、気づけば雨の音が静かになっていた。屋根の先から落ちる水音に、視線を窓の外へ向けると、青い空が広がり始めていた。