その青は還る 完結

 そんなことも忘れた数日後。店に行って、彼女を指名したら、長かった髪を短くした状態で現れた。あまりにも思い切った感じで息を呑んだが、彼女は気まずそうに首元を触りながら、俺の隣に腰を下ろした。

「こんばんは、ご指名ありがとう、ございます……」
 だが、彼女は俺に目も向けず、すぐにおしぼりで手を拭き、酒を作り始める。

 俺は少し迷って、煙草を手にした。

「なんか……」

 火を点けてから、一口吸った。その煙を吐き出しながら、続けた。

「たまごみてぇだな……」

 そこで彼女の手が止まった。完全にしくじった。選択肢は他にもあって、言おうともしていた。思わず舌打ちしたが、もうどうにもならなくて、成り行きに任せた。

「じゃあ、金髪か白いほうが、似合いますね」と、彼女は少し怒りながらも、グラスを手元近くに、静かに置いた。しかし、彼女の視線は定まらず、そこかしこを彷徨っていた。

「短いのも似合ってる……」俺がそう言うと、すぐ横目で見てから、また戻した。

 だが、どうも様子がおかしい。照れている素振りはないのは無論、俺がポケットから手を出しただけで、僅かに体が跳ねていた。膝の上に置かれたハンカチと、右手に握ったライター。微妙に震えてるのは、俺が一点を見ているせいなのか……?

「今日も、いい天気ですね」
 違う。よく見れば、髪の毛が乱雑に切られている。しかし、それが分かったところで、俺に踏み込める隙はない。

「だな……、店終わったら、どっか行く?例えば、海とか」

 ようやく彼女は俺を見ると、頼りない顔で笑った。

「そうですね……、それもいいかもしれませんね」その声が今にも泣きそうで、思わず手首を掴んだ。

 彼女が何か言ってた気もするが、構わずに進んで、会計をいつもより多めに置いた。そしてエレベーターが開いた瞬間に、黒服と視線がぶつかった。だが、黒服は俺と彼女を見てから、「0時までにおなっしゃす」と言って、去って行った。

 エレベーターの中で冷静になって、掴んだ手首を離した。

「ごめん……。ペナルティとか、あるよな……」

「いえ、大丈夫です……。もともと、早退するつもり、だったので……」

 勢い任せなのはともかくとして、言葉すら出ない自分が情けなくなった。

 彼女よりも年上なのに、金しか持ってなくて、その使い道も人が羨むようなものではない。かと言って、誰かを喜ばせるようなこともない。

 それでも、同じ景色ばかりを見ている彼女に、違う景色を俺は見てほしかった。