その青は還る 完結

 それからというもの、繁華街を歩けば、どこかで見た顔が偶然を装うように誘ってきた。最初はいつも通りで、金の支払いも、残されたテーブルの片付けも同じだった。そのうちに俺がろくに喋らないと分かると、気づけば顔を合わせなくなった。

 俺にとっては何の損得もないが、相手にしてみればおままごとのようで、飽きたのだろう。二度と会わないだろうし、気楽になったと思えば、酒も旨くなりそうだった。

 すぐに足を進めて店へ向かい、黒服に案内される間に少し考えた。そして、席に着いてから、煙草を手にして、口を開いた。

「……新人の子……、いる?」

 そこで、店内を見回してみたが、気配が感じられない。あの時の服装が印象に残りすぎて、咄嗟にそう口にしただけで、確証はなかった。

「名前、覚えてらっしゃいますか?」と黒服が尋ねてきたが、俺は思い出したと同時に口を開いた。

「……玉城、さん」

 こういう場所では名前を言うのが適切なのかもしれない。だが、その名前を口にすると、なぜか気まずくなった。
 すると、黒服はためらわずに「今日は出勤していません、別の女の子をおつけします」と言った。

「いらね」俺は投げ捨てるように吐き出した。
 考えてみても、学生のようだったから、いつもいるとは限らない。むしろ、前の様子から、手伝いに近いと感じた。

「かしこまりました」黒服は静かに言って、席を離れていった。

 そこで急に自分が馬鹿馬鹿しく思えた。考えなくても分かることを、その場の勢いで口にしている。自分でもあきれて物が言えず、酒の味が苦くて、煙草も吸ってる気がしなかった。

 『じゃあ、このあとどうする……?』と内心、俺は自分に問いかけた。酒を飲んで帰るしか選択肢がない、と思ったところで、グラスを置いた。

 まだ一口しかつけてないのに、もったいないが仕方ない。そう片付けて、会計を多めに支払い、店を後にした。そこから、タクシーを捕まえて、自宅へ向かった。部屋に入って、すぐにシャワーを浴びた。ろくに髪も乾かさず、鴨居に掛けたハンガーから、適当に服を取った。繋ぎの服を着て、車のキーと煙草、そしてライターを手に部屋から出た。

 柔らかい潮風が吹き、黒い地平線が僅かに揺れる海のそばに車を停め、俺はボンネットに尻を預けた。

 月の光が水面を照らして、寄せては返す波音が繰り返す。潮風は髪を弄び、攫うかのようだった。