その青は還る 完結

 それ以来、スタジオに籠る日々が増えていった。来る日も来る日も歌音に歌い直しをさせて、ついに俺は口を出してしまった。だが、それでも諦めずに、歌音は自らマイクの前に立った。

 ある日は言い合いをして、また別の日は互いに歌い方を模索した。細かい音を拾い上げて、喧嘩をしたこともあった。そのうち音が並んで、繰り返すうちに日々も過ぎていった。

 曲が本格化する頃に、俺はあることを考えて、動き始めた。金の用意は無論、あの店にも少し足を運んで、様子だけを見ていた。そこからは、色んな場所を走り回って、いつ寝たのかも分からなくなっていた。

 そして、ようやく曲が出来て、動いていたことを纏め始めたときに、木崎が個室を訪れてきた。俺がすぐに一枚のCDを差し出したところで、彼は口を開いた。

「ご苦労さまでした。予定通りに期間内に収まりました。有難うございます」

 相変わらず丁寧な物言いが鼻につくが、俺は軽く笑って返した。

「どういたしまして。それで?」

「一つだけ、確認不足がありました」彼はそう言って、CDに軽く目を落とすと、俺のほうへ視線を向けて、「名義はどうしますか?」と尋ねてきた。

 そこで、俺は煙草をくわえ、火を点けて、ジッポを手にした。

「佐伯、龍騎」口にした名前を、何度か胸の内で繰り返していた。

「かしこまりました。今回の件はこれで終了です。また機会があれば、ご連絡致します。それでは、失礼致します」静かに言い終えると、彼は鞄にCDを丁寧に入れ、踵を返した。

「木崎」思わず呼び止めると、彼は振り返りもせずに、聞き耳を立てているようだった。

「今度、飲みに誘う」俺がそう言うと、彼は軽く手を上げて、「お酒は辞めました」と手を戻してから、「一杯だけなら、お付き合い致します」と言って颯爽と立ち去った。

 どこまでも変わらない態度にあきれたが、その言葉だけは近く感じた。

 煙草を消して、テーブルの上を片付け、個室を見回し、その場を後にした。スタジオを出てから、ある店に頼んでいた物を取りに向かった。それは通っていた店で使うものだが、余った分は置いておけばいいと仕舞った。

 そして、俺は店に向かい、例の黒服にそれを差し出して、賭けに出た。

 結果がどうなろうと構わなかった。

 すでに俺は自分の場所も作って、歩き始めようと決めた。

 ただ、片隅に置いた想いは、この先も変えることはない。

 いつか、どこかで、彼女に会ったとしても、気持ちは続いていく。

 例えば、それが遠い未来だとしても……。

ー完結。