その青は還る 完結

 その日のうちにデモを仕上げて、歌音に送ると、すぐに返事がきた。翌日の午後に行くと記されていたが、その通りにスタジオの個室に入ってきた。歌音の態度は以前と変わらず、携帯を手にしたままブースに入ろうとしていた。

「歌音、携帯は置いていけ」そう指摘すると、歌音は携帯を俺に向かって放り投げた。膝の上に落ちた携帯を機材の近くに置き、先が思いやられると感じながら、機材に手を掛けた。

 その声はとても可愛らしく、綺麗に音を並べていた。歌詞にセンスもあって、声も悪くはない。だが、何かが欠けていると感じた。そこで、何度かやり直させてみたものの、結果は同じだった。

 どうしたものかと、足を組んで、膝に肘をつき、頬杖をついた。煙草を口にし、火を点けて、ジッポを鳴らしていた。

 するとブース内から、歌音がマイクに向かって「もう終わり?」と、こちらに視線を投げた。俺は首を振って応えてから、「少し休憩だ」と伝えた。

 歌音はブース内から出てくると、即座に携帯を手にして、文字を打ち込んでるようだった。その態度を見ながら、俺は尋ねてみた。

「彼氏か」

「そんなんじゃありません。ていうか、セクハラ」と歌音は嫌な顔をしたが、携帯に視線を移すと、すぐに顔色が変わった。

「お互い様だろ。俺も前にされてる」そう言うと、歌音は徐々に表情を変え、ばつが悪そうに「すみません……」と言った。

「それで?」俺はさらに尋ねてみた。

「……彼氏、じゃなくて……、友達……、みたいな」歌音は軽く頬を膨らませ、素知らぬ顔をしていた。

「ふーん……」そう言って、俺は様子を窺った。

「な、なんですか、別にそういう人がいてもいいじゃん」少し声を上げて、怒った表情を作った。

「何も言ってないけど」と口にしながら、おかしくて頬が緩んでいた。

 すぐに歌音は何か言い掛けて、気まずそうに口を閉じた。俺は煙草を消してから、軽く腕を組んで、口を開いた。

「作った歌詞は全部捨てろ」

 歌音は俺を見たまま、泣きそうな目をしていた。だが、俺は構わず続けた。

「そいつを題材に新しいものを作ってこい」

 正直なところ、それは賭けでもあった。だが、あれだけ夢中になっているのだから、簡単なことだろうと踏んだ。

 何よりも、本人が歌詞に納得できなければ、俺は曲を作る意味がないと思った。

「わかった……。おつかれさまでした……」

 頼りない声が個室内に落ちて、華奢な体が過ぎると、長い髪の毛が放物線を描いていた。