ハートをちょうだい



服飾学校を卒業後、下積みを経験して二十七歳で自分のブランド『KIYOMI SUZUKAWA』を立ち上げて、毎日が充実して楽しかった。

私は刺繍が好きで、下積み時代は特にその技を工房で学んだ。

……楽しいばかりではなかった。

スタッフの生活が掛かってる、お客様がワクワクして、手に取りたくなる服を、産み続けなければならない。

そのプレッシャーを常に感じていた……。


自分の好きな事だけしてたら、ファッション業界に置いてかれる。

必要とされなくなるのは、何よりも恐ろしかった。


「お姉さん、一人?」

新作のデザインが、どうもしっくりこなくて、気分を変えようと、クラブに来て一人で飲んでると、そう声を掛けられた。

おっ。……イケメン。

酔ってる頭でも、顔が良いのは認識した。

タイプの顔だった。


クラブのフロアでは、DJが盛り上げていた。

人気のクラブで、芸能人がお忍びで来たりした。


「一人だよー。」

俳優、かなぁ。

それとも、初めて見る顔だがモデルか。


「飲み過ぎだよ。」

「飲みたい気分なの。放っておいて。」

グラスを傾けて飲もうとしたけど、イケメンに奪われて、飲み干されてしまった。



「相談には乗れないけど、話なら聞くよ?」

そう言われた。

確かに、関係性のない赤の他人の方が、話しやすい場合はある。

「……ホテル、行かない?」

が、話を聞いてもらうより、そっちの方が有意義……。

目の前に、タイプのイケメンがいるのだから。


「お姉さん、お名前、なんて言うの?」

イケメンが会計してくれて、クラブを出ると聞かれた。

「キヨミ。」

「漢字は?」

「清い実で、清実。」

「……清実さんか。俺は蓮華の蓮だよ。」

「蓮くんね。素敵な名前。」

そんな話をしながら、ホテル街を歩いた。

良い感じの部屋を選んで、チェックインした。