小田君はもうすぐ遠くに行ってしまう。もしかしたらもう会えないかもしれない。
やっぱり何か選ぶことにした。小田君の言う通り、記念だ。最初で最後の、デートの記念。
「あ、それかわいいでしょ。新作なの。バッグとかにも付けられるよ」
わたしが手に取ったピンバッジを見てお姉さんは言った。シルバーでできたちょうちょで、目のところにブルーの小さな石が埋めてある。値段は七百円。ざっと見回してもこれよりも安いのは無さそうだ。でも値段ではなくて、わたしは本当にそれが気に入った。かわいいし、これなら学校のカバンにだって付けられる。
「わたしこれがいい」
「それでいいの?」
「これがいいの」
「じゃあ、これください」
「はーい。七百円ね。袋いる?」
わたしは横に首を振った。そしてその場でシルバーのちょうちょをバッグに着けた。
「じゃあ三百円のおつりね。どうもありがとねー」
お姉さんに手を振り返してその場を後にした。
「ありがとう」
小田君にお礼を言う。
「そんな、改まって言われるほどのもんじゃないけど」
前を向いたまま、ちょっと照れてる感じがかわいい。
「そんなことない。大事にするね」
今、小田君とこうしていることが不思議だった。ついこの間まで、お互い存在さえ知らなかったのに。でもこうやって並んで歩くことももうないのかもと思うと、楽しさやうれしさを、寂しさが追い越してしまうのだった。
帰りの電車は来るときよりも混んでいた。ドアの横のバーに一緒につかまりながら、流れる景色を眺めた。
ずっと連絡先を聞きたいと思っていた。でも聞けていない。向こうだって聞いては来ない。
インスタとかはやってないようだから、今日このまま別れてしまったらそれでおしまいだ。
その前に勇気を出して連絡先を聞こう。もう友達なんだから、なんにもヘンじゃない。断られたって、別に何か損するわけでもないんだし。別に。
帰りは行きよりあっという間だった。
改札を抜けると、小田君は両方の出口を軽く交互に指しながら聞いた。
「川口さんどっち?」
「あっち。バスに乗るから」
「そこまで送るよ」
「小田君もあっちなの?」
「違うよ」
小田君は先に歩き出した。
普通、友達にそこまでする? 暗い夜道ならわかるけど、人の多い夕方の駅の構内だ。もしかして、少しでも長く一緒にいたいと思ってくれているとか……。
出口を出るとバスの乗り場までは遠くない。
ドキドキしていた。でも告白するわけじゃあるまいし、ただ何気ない感じで言えばいいだけだ。「LINE教えて」と。ごく、自然な感じで。
バス乗り場に着いた。
「バス、何分?」
時刻表を見ると、次のバスまであと二分しかない。見送ってくれるつもりなのか、小田君は帰ろうとしない。早く言わないと……。
「ねえ小田君……」
胸がバクバク言っている。
「ん?」
「LINE交換しない?」
声がちょっと上ずっていたかもしれない。
「ああ、うん」
小田君がブレザーのポケットからスマホを取り出した。
なんとなくぎこちない感じで連絡先を交換する。その後は何を話したらいいかわからなかった。
早かったような遅かったような、少し遅れてバスが来た。
「今日はいろいろありがとう」
「こっちこそ、付き合ってくれてありがとう。気をつけて」
バスの窓越しに手を振ると、小田君も振り返してくれた。
その姿が見えなくなってすぐ、LINEの着信音が鳴った。慌ててスマホを取り出す。
〈そういえば言ってなかった。誕生日おめでとう〉
小田君からだった。すぐに〈ありがとう〉と返した。
バスに揺られながら、うれしさをぎゅっと嚙み締める。
本当にそうやって噛み締めていないと、感情が溢れ出して、一人で笑い出してしまいそうだった。
最高の誕生日だった。
小田君が遠くに行ってしまう寂しさを、その瞬間は忘れていた。
やっぱり何か選ぶことにした。小田君の言う通り、記念だ。最初で最後の、デートの記念。
「あ、それかわいいでしょ。新作なの。バッグとかにも付けられるよ」
わたしが手に取ったピンバッジを見てお姉さんは言った。シルバーでできたちょうちょで、目のところにブルーの小さな石が埋めてある。値段は七百円。ざっと見回してもこれよりも安いのは無さそうだ。でも値段ではなくて、わたしは本当にそれが気に入った。かわいいし、これなら学校のカバンにだって付けられる。
「わたしこれがいい」
「それでいいの?」
「これがいいの」
「じゃあ、これください」
「はーい。七百円ね。袋いる?」
わたしは横に首を振った。そしてその場でシルバーのちょうちょをバッグに着けた。
「じゃあ三百円のおつりね。どうもありがとねー」
お姉さんに手を振り返してその場を後にした。
「ありがとう」
小田君にお礼を言う。
「そんな、改まって言われるほどのもんじゃないけど」
前を向いたまま、ちょっと照れてる感じがかわいい。
「そんなことない。大事にするね」
今、小田君とこうしていることが不思議だった。ついこの間まで、お互い存在さえ知らなかったのに。でもこうやって並んで歩くことももうないのかもと思うと、楽しさやうれしさを、寂しさが追い越してしまうのだった。
帰りの電車は来るときよりも混んでいた。ドアの横のバーに一緒につかまりながら、流れる景色を眺めた。
ずっと連絡先を聞きたいと思っていた。でも聞けていない。向こうだって聞いては来ない。
インスタとかはやってないようだから、今日このまま別れてしまったらそれでおしまいだ。
その前に勇気を出して連絡先を聞こう。もう友達なんだから、なんにもヘンじゃない。断られたって、別に何か損するわけでもないんだし。別に。
帰りは行きよりあっという間だった。
改札を抜けると、小田君は両方の出口を軽く交互に指しながら聞いた。
「川口さんどっち?」
「あっち。バスに乗るから」
「そこまで送るよ」
「小田君もあっちなの?」
「違うよ」
小田君は先に歩き出した。
普通、友達にそこまでする? 暗い夜道ならわかるけど、人の多い夕方の駅の構内だ。もしかして、少しでも長く一緒にいたいと思ってくれているとか……。
出口を出るとバスの乗り場までは遠くない。
ドキドキしていた。でも告白するわけじゃあるまいし、ただ何気ない感じで言えばいいだけだ。「LINE教えて」と。ごく、自然な感じで。
バス乗り場に着いた。
「バス、何分?」
時刻表を見ると、次のバスまであと二分しかない。見送ってくれるつもりなのか、小田君は帰ろうとしない。早く言わないと……。
「ねえ小田君……」
胸がバクバク言っている。
「ん?」
「LINE交換しない?」
声がちょっと上ずっていたかもしれない。
「ああ、うん」
小田君がブレザーのポケットからスマホを取り出した。
なんとなくぎこちない感じで連絡先を交換する。その後は何を話したらいいかわからなかった。
早かったような遅かったような、少し遅れてバスが来た。
「今日はいろいろありがとう」
「こっちこそ、付き合ってくれてありがとう。気をつけて」
バスの窓越しに手を振ると、小田君も振り返してくれた。
その姿が見えなくなってすぐ、LINEの着信音が鳴った。慌ててスマホを取り出す。
〈そういえば言ってなかった。誕生日おめでとう〉
小田君からだった。すぐに〈ありがとう〉と返した。
バスに揺られながら、うれしさをぎゅっと嚙み締める。
本当にそうやって噛み締めていないと、感情が溢れ出して、一人で笑い出してしまいそうだった。
最高の誕生日だった。
小田君が遠くに行ってしまう寂しさを、その瞬間は忘れていた。
