翌週の火曜日、学校の帰りに駅前のショッピングモールに寄った。友達の新しいスマホカバーを一緒に選ぶためだ。と言っても友達は事前にリサーチ済みだったので、色だけ一緒に選んだ。
しばらくモールの中をぶらぶらしてから、帰る方向が違うので友達とはそこで別れた。
ショッピングモールを東側に出て少し歩くと緑地公園がある。噴水もあって、まあまあの広さの公園だ。家に帰るにはモールを西側に出て駅前でバスに乗るのだけれど、なんとなく、気持ちのいい場所で少しぼうっとしたい気分だった。
公園に入るとすぐ、真っピンクのボールでリフティングをしている男子高校生らしき姿が目に飛び込んできた。
瞬時にあの子のことが頭に浮かぶ。というか、実のところずっと頭から離れないでいる。
制服もこの間あの子が着ていたのに似てるけど、紺のブレザーの制服なんて山ほどあるし、そもそも十和崎だと言っていたからここにいるわけがない。なのに、近づくにつれて胸のざわめきは増していく。
男子高校生は視線を感じたのか、つま先でリフティングを続けながらふっとこっちに顔を向けた。
やっぱりそうだ―。
彼はボールを軽くぽーんと蹴った。わたしの前に真っピンクのおもちゃのボールが転がって来た。
「取ってくれる?」
あの子だ。わたしはボールを拾って投げ返した。
「サンキュ」
彼はまたリフティングを始めた。
何も言わない。
胸がトクトク言っている。
わたしはゆっくりと近づいた。
「ここで何してるの?」
思い切って聞いてみる。
「見ての通り。サッカーの練習」
「そんなボールで?」
「ここにあったから。誰かの忘れ物だろうね」
「どうしてここにいるの? 十和崎でしょ?」
彼はボールを蹴るのをやめた。
「俺地元こっちなんだ」
「そうなの?」
こんな顔だった、と思う。うん。この前も、こんな顔だった。
「君、南高? その制服そうだよね? 今学校の帰り?」
「うん。でもここを通ったのはたまたま。いつもはこの辺来ないから」
「そうなんだ? 何年?」
「一年」
「じゃあ俺よりいっこ下なんだ?」
わたしよりいっこ上なんだ。
「サッカー部なの?」
「そうだよ」
「今日は部活は?」
「休み。中間テスト前だから」
「だったらそんなことしてないで、早く帰って勉強しなくていいわけ?」
彼はまたボールをぽんと蹴って、す、と一度頭に載せてから足へと戻した。
「上手だね」
「俺、サッカー選手になりたいんだ」
「サッカー選手? 本気で?」
「もちろん。うわっ」
蹴り損ねたボールが近くのベンチの方に転がった。彼はボールを追って、そのままベンチに腰を下ろした。
「俺、小田翔太。君は?」
彼が、小田翔太が、まっすぐこっちを見ている。ちょっとドギマギして視線を逸らした。
「名前何て言うの?」
小田翔太がまた聞いた。
「川口藍子」
「へえ。かわいい名前」
自分で耳が赤くなるのがわかる。そんなこと恥ずかしげもなく言うんだ。っていうか、褒められたのは名前だけど。
「突っ立ってないで座れば?」
そわそわしながら、わたしは隣に腰を下ろした。
少しして彼が言った。
「サッカー選手になりたいって、そんなにおかしい?」
「そうじゃないけど……」
ただ、現実的じゃないと思っただけだ。小学生の頃なら、そういうことを言う子もけっこういたけど。
「俺としては、もちろんJ1でやれる選手になれたら一番いいけど、J2とかJ3とか、とにかくプロでサッカーやれたらいいなって思ってる。そのために高校も十和崎に行ったんだ。強いんだ。うちのサッカー部」
「でも、もし運よくプロになれたとしても、活躍できる人ってほんのちょっとなんでしょう? ケガとか、普通の人より大変そうだし」
彼は数秒置いて口を開いた。
「川口さんは夢とかないの?」
「特にない」
「将来やりたいこととか、全然ないの?」
本当に、ない。
「だって、大人とか見てても希望持てなくない?」
大学生の姉は、ちょっとだけ明るかった髪をわざわざ黒くして、他の人と同じようなスーツを着て就職活動をしていた。別に全然派手だったわけでもないのに、なんでそんなことをしなきゃいけないのかわからない。
ママはいつも言っている。ある程度いい会社の正社員じゃないとお給料も安いし、保障もないからダメだって。保障とかよくわからないけど、あれだけ言うんだからきっと重要なんだろう。興味ないけど。
「俺はサッカー選手見てるとすごく羨ましいし、憧れる。あんな風になりたいって思うけど」
前向き……というか、ちょっと子供っぽい。年上なのに。
しばらくモールの中をぶらぶらしてから、帰る方向が違うので友達とはそこで別れた。
ショッピングモールを東側に出て少し歩くと緑地公園がある。噴水もあって、まあまあの広さの公園だ。家に帰るにはモールを西側に出て駅前でバスに乗るのだけれど、なんとなく、気持ちのいい場所で少しぼうっとしたい気分だった。
公園に入るとすぐ、真っピンクのボールでリフティングをしている男子高校生らしき姿が目に飛び込んできた。
瞬時にあの子のことが頭に浮かぶ。というか、実のところずっと頭から離れないでいる。
制服もこの間あの子が着ていたのに似てるけど、紺のブレザーの制服なんて山ほどあるし、そもそも十和崎だと言っていたからここにいるわけがない。なのに、近づくにつれて胸のざわめきは増していく。
男子高校生は視線を感じたのか、つま先でリフティングを続けながらふっとこっちに顔を向けた。
やっぱりそうだ―。
彼はボールを軽くぽーんと蹴った。わたしの前に真っピンクのおもちゃのボールが転がって来た。
「取ってくれる?」
あの子だ。わたしはボールを拾って投げ返した。
「サンキュ」
彼はまたリフティングを始めた。
何も言わない。
胸がトクトク言っている。
わたしはゆっくりと近づいた。
「ここで何してるの?」
思い切って聞いてみる。
「見ての通り。サッカーの練習」
「そんなボールで?」
「ここにあったから。誰かの忘れ物だろうね」
「どうしてここにいるの? 十和崎でしょ?」
彼はボールを蹴るのをやめた。
「俺地元こっちなんだ」
「そうなの?」
こんな顔だった、と思う。うん。この前も、こんな顔だった。
「君、南高? その制服そうだよね? 今学校の帰り?」
「うん。でもここを通ったのはたまたま。いつもはこの辺来ないから」
「そうなんだ? 何年?」
「一年」
「じゃあ俺よりいっこ下なんだ?」
わたしよりいっこ上なんだ。
「サッカー部なの?」
「そうだよ」
「今日は部活は?」
「休み。中間テスト前だから」
「だったらそんなことしてないで、早く帰って勉強しなくていいわけ?」
彼はまたボールをぽんと蹴って、す、と一度頭に載せてから足へと戻した。
「上手だね」
「俺、サッカー選手になりたいんだ」
「サッカー選手? 本気で?」
「もちろん。うわっ」
蹴り損ねたボールが近くのベンチの方に転がった。彼はボールを追って、そのままベンチに腰を下ろした。
「俺、小田翔太。君は?」
彼が、小田翔太が、まっすぐこっちを見ている。ちょっとドギマギして視線を逸らした。
「名前何て言うの?」
小田翔太がまた聞いた。
「川口藍子」
「へえ。かわいい名前」
自分で耳が赤くなるのがわかる。そんなこと恥ずかしげもなく言うんだ。っていうか、褒められたのは名前だけど。
「突っ立ってないで座れば?」
そわそわしながら、わたしは隣に腰を下ろした。
少しして彼が言った。
「サッカー選手になりたいって、そんなにおかしい?」
「そうじゃないけど……」
ただ、現実的じゃないと思っただけだ。小学生の頃なら、そういうことを言う子もけっこういたけど。
「俺としては、もちろんJ1でやれる選手になれたら一番いいけど、J2とかJ3とか、とにかくプロでサッカーやれたらいいなって思ってる。そのために高校も十和崎に行ったんだ。強いんだ。うちのサッカー部」
「でも、もし運よくプロになれたとしても、活躍できる人ってほんのちょっとなんでしょう? ケガとか、普通の人より大変そうだし」
彼は数秒置いて口を開いた。
「川口さんは夢とかないの?」
「特にない」
「将来やりたいこととか、全然ないの?」
本当に、ない。
「だって、大人とか見てても希望持てなくない?」
大学生の姉は、ちょっとだけ明るかった髪をわざわざ黒くして、他の人と同じようなスーツを着て就職活動をしていた。別に全然派手だったわけでもないのに、なんでそんなことをしなきゃいけないのかわからない。
ママはいつも言っている。ある程度いい会社の正社員じゃないとお給料も安いし、保障もないからダメだって。保障とかよくわからないけど、あれだけ言うんだからきっと重要なんだろう。興味ないけど。
「俺はサッカー選手見てるとすごく羨ましいし、憧れる。あんな風になりたいって思うけど」
前向き……というか、ちょっと子供っぽい。年上なのに。
