「残された家族もかわいそうだよな。先生……奥さんの方、俺たちの前ではずっと普通にしてたんだ。旦那さんが病気らしいってことは聞いてたんだけど、死ぬような病気だなんて思ってなかった。本当は今までどんだけ辛かったんだろうって思うと、もっとちゃんと先生の言うこときいときゃよかったって思うよ」
「言うこときかなかったの?」
「別に反抗してたとかそんなんじゃないけど、だいたい授業は上の空だし、提出物とかも適当だったし。そういうので、余計な苦労かけてたのかなって」
しばらく黙って歩いた。何を話したらいいかわからなかったけど、不思議と気まずさは感じなかった。
「じゃあわたし、あっちだから」
「うん。じゃあ」
結局、名前を聞くことも聞かれることもないまま別れた。
その夜、中学の時の女子バスケ部のグループLINEでメッセージが届いた。
〈今日の内山先生のお葬式、十和崎の戸塚龍吾くん来てたよね!?〉
〈まさかの戸塚龍吾降臨!! めっちゃかっこよかった!!〉
〈すごく悲しかったのに、あのかっこよさで癒された!!〉
〈イケメンすぎる。神〉
〈えー私も見たかった。お葬式行けばよかった〉
通知音はしばらく続いた。みんなが騒いでいるのはあのナンパ男のことらしい。そんなに有名なんだ。正直に言うと、わたしもほんの一瞬ときめいた……じゃなくて驚いた。見た目は確かにすごくかっこよかったから。でも、実際はチャラくてすごく遊んでるみたいだよってみんなに教えてあげようかと思ったけどやめた。面倒くさいだけだ。そんなヤツのことより、わたしはなぜかあの子のことをずっと考えていた。
(ごめん待った? 行こう)
(人違いなんてしてないよ)
(だって俺君のこと知らないもん)
(ごめん。怒らせるつもりじゃなかったんだ)
もしかして、あれって助けてくれたってこと? ナンパ男から、わたしのことを。
最初は嫌なヤツって思ったけど、意外といいヤツなのかもしれない。残された内山先生の家族のことも気にかけていたし。
あの子がどんな顔だったか思い出してみる。
髪は長くもなく短くもなく、肌はわりと日に焼けていて、目は、大きくもなく小さくもなく、一重だったか、二重だったか……。眉の印象も特にないから、きっと太くも細くもないんだろう。それとも前髪で隠れていた? 鼻や口は? 身長はわたしよりも高かった。十センチか、十五センチか、もっとか……。
そんなに長いこと一緒にいたわけじゃないから、細かいところは思い出せない。でももしまた偶然会ったら、絶対にわかる自信があった。会うことなんて、ないだろうけど。
あの子に掴まれた感覚がまだ残っている気がして、わたしは自分の左腕にそっと触れた。
「言うこときかなかったの?」
「別に反抗してたとかそんなんじゃないけど、だいたい授業は上の空だし、提出物とかも適当だったし。そういうので、余計な苦労かけてたのかなって」
しばらく黙って歩いた。何を話したらいいかわからなかったけど、不思議と気まずさは感じなかった。
「じゃあわたし、あっちだから」
「うん。じゃあ」
結局、名前を聞くことも聞かれることもないまま別れた。
その夜、中学の時の女子バスケ部のグループLINEでメッセージが届いた。
〈今日の内山先生のお葬式、十和崎の戸塚龍吾くん来てたよね!?〉
〈まさかの戸塚龍吾降臨!! めっちゃかっこよかった!!〉
〈すごく悲しかったのに、あのかっこよさで癒された!!〉
〈イケメンすぎる。神〉
〈えー私も見たかった。お葬式行けばよかった〉
通知音はしばらく続いた。みんなが騒いでいるのはあのナンパ男のことらしい。そんなに有名なんだ。正直に言うと、わたしもほんの一瞬ときめいた……じゃなくて驚いた。見た目は確かにすごくかっこよかったから。でも、実際はチャラくてすごく遊んでるみたいだよってみんなに教えてあげようかと思ったけどやめた。面倒くさいだけだ。そんなヤツのことより、わたしはなぜかあの子のことをずっと考えていた。
(ごめん待った? 行こう)
(人違いなんてしてないよ)
(だって俺君のこと知らないもん)
(ごめん。怒らせるつもりじゃなかったんだ)
もしかして、あれって助けてくれたってこと? ナンパ男から、わたしのことを。
最初は嫌なヤツって思ったけど、意外といいヤツなのかもしれない。残された内山先生の家族のことも気にかけていたし。
あの子がどんな顔だったか思い出してみる。
髪は長くもなく短くもなく、肌はわりと日に焼けていて、目は、大きくもなく小さくもなく、一重だったか、二重だったか……。眉の印象も特にないから、きっと太くも細くもないんだろう。それとも前髪で隠れていた? 鼻や口は? 身長はわたしよりも高かった。十センチか、十五センチか、もっとか……。
そんなに長いこと一緒にいたわけじゃないから、細かいところは思い出せない。でももしまた偶然会ったら、絶対にわかる自信があった。会うことなんて、ないだろうけど。
あの子に掴まれた感覚がまだ残っている気がして、わたしは自分の左腕にそっと触れた。
