◇
海人side
絵を描くことが好きだった。幼い頃は、絵に携わる仕事がしたいと思っていた時期もある。けれど、その夢を口にすることはなかった。俺は、生まれたときから会社を継ぐために育てられてきた。感情など必要ない。経営学、語学、礼儀作法。将来、会社を背負うために必要だと言われたものは、幼い頃から何でも身につけさせられた。だから、夢を口にすることは、到底できなかった。それでも絵を描くことだけは、やめられなかった。
誰に見せるつもりもなく、ただ自分のために描いていた。
そのうち、出来心で『ルイ』という名前を使い、デザイナーとして活動するようになった。
まさか、自分の会社の商品を担当することになるとは思わなかったが。絵を描く時間は、俺にとってストレスを吐き出せる貴重な時間でもあった。
だから、それはそれでよかった。だが――。
アクアリウムコスメのデザインだけは、どうしても筆が進まなかった。
『愛される女性』
その言葉を何度考えても、形にならない。描いてみても、何かが違う。そんなときだった。
「綺麗ですね……でも、なんだか寂しそうです」
七海美月が俺のデザインを見てそう言った。驚いた。みんな綺麗だ、素敵だと褒めてくれるばかりでそこに気づいた人間は、今までいなかったからだ。彼女のことは、以前から知っていた。
仕事が終わると、決まって二階のフロアにある俺の絵を見に行く。いつも、柔らかく笑いながら。最初は、ただ絵が好きな社員なのだと思っていた。
けれど、いつからか。彼女があの絵の前に立つ姿を、目で追うようになった。何を考えながら見ているんだろう。
どうして、あんなにも愛おしそうに絵を見るんだろう。
気づけば、彼女そのものが気になって仕方なくなっていた。
仕事は真面目で、何より感性が豊かだった。
俺がどんな想いで描いたのか見抜いてしまう。でもそれが妙に心地よかった。
だけど彼女には忘れられない大切な人がいる。亡くなった元恋人。
そんな過去も受け入れながらも前を向いて歩く彼女が、健気でどうしょうもなく綺麗だった。
気づけば、もう目を離せなくなっていた。
海人side
絵を描くことが好きだった。幼い頃は、絵に携わる仕事がしたいと思っていた時期もある。けれど、その夢を口にすることはなかった。俺は、生まれたときから会社を継ぐために育てられてきた。感情など必要ない。経営学、語学、礼儀作法。将来、会社を背負うために必要だと言われたものは、幼い頃から何でも身につけさせられた。だから、夢を口にすることは、到底できなかった。それでも絵を描くことだけは、やめられなかった。
誰に見せるつもりもなく、ただ自分のために描いていた。
そのうち、出来心で『ルイ』という名前を使い、デザイナーとして活動するようになった。
まさか、自分の会社の商品を担当することになるとは思わなかったが。絵を描く時間は、俺にとってストレスを吐き出せる貴重な時間でもあった。
だから、それはそれでよかった。だが――。
アクアリウムコスメのデザインだけは、どうしても筆が進まなかった。
『愛される女性』
その言葉を何度考えても、形にならない。描いてみても、何かが違う。そんなときだった。
「綺麗ですね……でも、なんだか寂しそうです」
七海美月が俺のデザインを見てそう言った。驚いた。みんな綺麗だ、素敵だと褒めてくれるばかりでそこに気づいた人間は、今までいなかったからだ。彼女のことは、以前から知っていた。
仕事が終わると、決まって二階のフロアにある俺の絵を見に行く。いつも、柔らかく笑いながら。最初は、ただ絵が好きな社員なのだと思っていた。
けれど、いつからか。彼女があの絵の前に立つ姿を、目で追うようになった。何を考えながら見ているんだろう。
どうして、あんなにも愛おしそうに絵を見るんだろう。
気づけば、彼女そのものが気になって仕方なくなっていた。
仕事は真面目で、何より感性が豊かだった。
俺がどんな想いで描いたのか見抜いてしまう。でもそれが妙に心地よかった。
だけど彼女には忘れられない大切な人がいる。亡くなった元恋人。
そんな過去も受け入れながらも前を向いて歩く彼女が、健気でどうしょうもなく綺麗だった。
気づけば、もう目を離せなくなっていた。



