海色の恋〜冷徹社長の甘い愛に染められて〜

私は、以前社長に借りたワンピースを持って家を訪れた。

「お邪魔します。これ、ありがとうございました」

高級なもののようだったので、念のためクリーニングに出してから持ってきた。

「返されても困る。受け取ってくれ」

時透社長が淡々と言う。

「いや、でも未来の彼女とかが着るんじゃないんですか?」

何気なくそう言った瞬間。時透社長がわかりやすく不機嫌になった。

「そのマーメイドワンピースは、七海さんに似合うだろ」

「え?」

「使ってくれ。休日まで引っ張り出しているんだ。それくらい安いものだ」

さらっと言われてしまう。私の名前、ちゃんと覚えてくれていたんだ。いくら社長とはいえ、三年目の社員の名前まで一人ひとり把握しているものだろうか。ルイさんとしてやり取りしたことはあるが、メールを交わしたのはほんの数回だけだ。それなのに、私の名前を覚えていてくれたらしい。
それにしても、こんな高そうなワンピースを「安いもの」って。きっと彼女ができたら、彼女には彼女に似合うものを惜しみなくプレゼントするのだろう。ここで無理に断るのも失礼だ。

「じゃあお言葉に甘えて。ありがとうございます」

「ああ」

時透社長はそれだけ答えるとすぐに仕事へ意識を戻した。

「早速、デザイン画を見てくれるか?」

「あ、はい」

後についていく。案内された部屋には、いくつものデザイン画が並べられていた。その横には、絵の具や色鉛筆、筆やパレット。さまざまな画材が、綺麗に整えられている。なんか、全部きっちりしてる。画材の並び方まで整然としていて、妙に時透社長らしい。

「いくつか考えてみたんだが」

「見せてもらってもいいですか?」

「ああ」

差し出されたデザイン画を、一枚ずつ見ていく。どれも綺麗だ。色も構図も洗練されている。商品として見れば、どれも完成度が高い。だけど。

「うーん」

「何か気になるか?」

「なんというか」

私はもう一度、絵を見る。

「素敵なデザインなんですけど、ハッピーな感じが薄い気がします」

思ったことを、そのまま口にした。すると時透社長は黙って、私の言葉を待つ。

「綺麗だし、可愛いんです。でも」

指先で一枚のデザイン画を示す。

「これを見て『愛されている』って感じるかって言われると、ちょっと違う気がするんですよね」

「愛されている、か」

「はい」

時透社長が絵を見つめる。その横顔は真剣で、まるで自分自身の中に答えを探しているようだった。