海色の恋〜冷徹社長の甘い愛に染められて〜

デザイン画を社長と進めることになった私は、ちょこちょこと呼び出されるようになった。会議室だったり、社長室だったり。けれど、いつも時透社長は眉間に皺を寄せ、難しい顔をしている。そのせいか、ほかの社員からはすっかり同情の目を向けられるようになった。
――七海さん、また呼ばれてる。
そんな視線を背中に感じながら、社長室へ向かう日々。妬まれるよりだいぶ気楽だ。でも、最近になって私は気づいた。この怖い顔。別に、怒っているわけではないらしい。

「社長…寝不足です?」

目の下にうっすらと隈ができているのに気づいた。目頭を指でぎゅっと押さえている。

「まあな。なんだか迷走してしまって。いろいろ描いてみた」

「見せてもらってもいいですか?」

「ああ」

差し出されたデザイン画を覗き込む。おお。確かに迷走している。色とりどりの魚。クラゲ。貝殻にヒトデ。さらにウミガメまで。まるで、水族館の生き物を片っ端から詰め込んで滝が流れる水場で戯れているようなデザインだった。

「これ酒盛りでもしてるんですか?」

思わずそう言ってから、時透社長を見る。一瞬、驚いたように目を見開いた。

「よくわかったな」

「え?」

「仮眠したときに、そんな夢を見た」

時透社長は真面目な顔のまま顎に手を添える。綺麗な顔をしているのに、意外とお茶目なところもあるのかもしれない。

「ちなみに、この滝と池は新潟の日本酒をイメージしている。越後の高い山々から流れ出る、雑味の少ないやわらかな軟水を使って、熟成、発酵させた。淡麗辛口の――」

「社長」

日本酒について淡々と語り続ける時透社長を見つめる。

「少し休んだほうがいいですよ」

「なぜだ?」

「社長業務に取引先との会食に商談、そのうえデザイン画まで考えて」

私はじとっと見つめる。

「このままだと過労死しますよ。本当に」

時透社長がぴたりと黙った。そして、何かに気づいたようにふっと我に返る。

「確かに」

「でしょう?」

「なら、明日うちに来てくれ」

「はい?」

「休日出勤だ。頼んだぞ」

「何でですか!?」

私の叫びを聞き流すように、時透社長はそのまま部屋を出ていく。

「ちょっと! 社長!」

閉じていくドアを見つめながら、私は大きく息を吐いた。人使い、荒すぎません?