君のとなり〜拓実との未来〜

大学二年の春。

一年間通ったキャンパスは、もうすっかり見慣れた景色になっていた。

「拓実、次の講義どこ?」

「三号館」

「また遠いな!」

「お前、去年から同じこと言ってる」

「だって遠いんだよ」

「じゃあ走れば?」

「理系の俺にそんな体力を求めるな」

「お前、去年まで運動部だっただろ」

「引退したんだよ!」

くだらない会話をしながら、友達と講義室へ向かう。

一年生の頃は、みんなそれぞれ少し遠慮していた。

でも一年も一緒に過ごせば、そんなものもなくなる。

授業の愚痴を言って。

課題を見せ合って。

昼飯を一緒に食べて。

たまに講義をサボりそうになる友達を引っ張っていく。

そんな関係が、俺は結構好きだった。

昼休み。

いつものように友達と学食で飯を食っていると、

「そういえば拓実」

「ん?」

「お前、彼女いるんだよな?」

「うん」

「高校から?」

「そう」

「……長っ!」

「何年?」

「三年くらい」

「マジかよ」

「しかも高校卒業してから、一回遠距離だったんだろ?」

「うん」

「え、待って」

友達が箸を置く。

「遠距離乗り越えたの?」

「まあ」

「すげえな!」

「俺、三週間でも無理だったぞ」

「お前と一緒にするなよ」

「ひどっ!」

みんなで笑う。

「で、今は?」

「今は関東にいる」

「え?」

「彼女も大学で関東に来た」

「じゃあ、会えるようになったんだ?」

「うん」

「いいじゃん!」

「しかも彼女、一個下だっけ?」

「そう」

「高校から付き合ってて、一個下で、今は関東?」

「……なんだそのまとめ方」

「いや、なんか青春映画みたいだなと思って」

「大げさ」

「いやいや。普通に羨ましいって」

「で、どんな子?」

また聞かれる。

俺は少し考えて、

「明るい」

「うん」

「負けず嫌い」

「ほう」

「頑固」

「お前、それ褒めてる?」

「事実」

「他は?」

「……ちょっと天然」

「なんだよ、それ(笑)」

「でも、すごく頑張り屋」

すると、向かいに座っていた友達がニヤッとする。

「お前さ」

「ん?」

「めちゃくちゃ好きじゃん」

「……好きだけど」

「認めた!」

「なんでそんな嬉しそうなんだよ」

「いや、拓実ってもっとクールなやつだと思ってたから」

「普通だろ」

「一回会わせろよ」

「やだよ」

「なんでだよ!」

「変な虫つくと嫌だから」

「出た!」

「お前、彼女のこと好きすぎだろ!」

「そうかもな」

「名前くらい教えろよ」

「それはいいだろ」

「顔も?」

「ダメ」

「徹底してんな!」

笑い声が広がる。

俺も笑った。

瑠夏を友達に会わせる。

そんなことを想像すると、少し面白い気もする。

でも。

やっぱり、まだいい。

今は俺だけが知っていればいい。

「でもさ」

別の友達が俺を見る。

「拓実も結構モテるじゃん」

「俺?」

「そうだよ!」

「去年、何人に告白されたと思ってんだよ」

「……知らない」

「本人が知らないのかよ!」

「興味ないし」

「この前も一年の子に呼び止められてただろ」

「ああ」

「絶対告白じゃん」

「連絡先聞かれただけ」

「それ、ほぼ告白だろ!」

「そうなの?」

「鈍すぎ!」

みんなが笑う。

「で、断ったの?」

「うん」

「即答?」

「即答」

「……彼女一筋かよ」

「当たり前だろ」

「うわー」

「ごちそうさまです」

「うるさい」

また笑う。

こうして友達とくだらない話をしている時間も、悪くない。

大学二年。

去年より、ずっと楽しい。

友達もいる。

やりたいことも少しずつ見えてきた。

来月からは長期インターンも始まる。

今まで続けてきたカフェのバイトは、今月で終わる。

新しい生活が始まる。

そして――

瑠夏も、大学一年生として新しい生活を始めている。

それぞれの場所で。

それぞれの毎日を過ごして。

それでも、会いたいときには会える。

会いたくても会えなかった時間を知っているからこそ。

今こうして会えることが、嬉しかった。

***

その日のバイトを終えて、待ち合わせ場所へ向かう。

「拓実!」

俺を見つけた瑠夏が、笑顔で手を振っていた。

「待った?」

「ううん」

「よかった」

隣に並ぶ。

「ねえ、拓実」

「ん?」

瑠夏が鞄から封筒を取り出した。

「今日、これもらったの」

「何?」

「見て」

一枚の写真を差し出される。

「宣材写真?」

「うん」

受け取った瞬間。

俺は、思わず黙った。

写真の中にいるのは、瑠夏だった。

いつもの笑顔とは少し違う。

少しだけ大人っぽくて。

でも、やっぱり瑠夏だった。

「……可愛い」

思わず口に出る。

「本当?」

「うん」

写真を見つめる。

また一つ。

俺の知らなかった瑠夏を知ることができた。

それが、嬉しかった。

「……これ、ちょうだい?」

「え?」

「持ってたい」

瑠夏が少し驚いたあと、嬉しそうに笑う。

「うん」

写真を大切にしまう。

俺も笑った。

今、俺は幸せだ。

大学も。

友達も。

これから始まる新しいことも。

そして何より。

瑠夏が、俺の隣にいる。

それだけで、十分だった。