あれから1週間。
3月も下旬に近づき、桜が少しずつだが咲き始めた。
寒さを感じていた温度も、穏やかな温かさを感じる頃になっていたが、特に竜司からの動きはなかった。
「悪い夢でも見てたのかなぁ…」
あともう少しで私も社会人か…
気合い入れないとなぁ。ベッドで大の字になりながら呟く。
プルルル…
圭吾からであった。
「もしもし?急なんだけど遊園地いかね?」
「え、あ…うん。12:00くらいなら行けると思う!」
「分かった。じゃあ12:00に迎えいくから」
圭吾はいつも急だなぁと思いつつ、準備をする。
―――
「よーし!できた!」
11:30!完璧じゃん私!
久々のデートに心が踊る。圭吾からの誘いなんて久しぶりだなぁ。
「お待たせ!ひさしぶりだね!運転お願いしま……す?これ女の子もののピアス落ちてるけど、どうしたの?」
「あ、あー?この間の飲みで友達が彼女のやつポケットに入ってたんじゃない?それ落としたんだと思うわ。」
「そ、そっか…」
絶対嘘だ。なんでそんなわかるような見え透いた嘘つくんだろう。
さっきまでデート楽しみにしてたのにな…
気まずい沈黙の中、車内にはアップテンポな曲だけが流れる。
まるで2人の距離のように…
「よーし、ついた!何暗い顔してんの?せっかくの遊園地だし楽しもうよ?」
「うん…ごめん」
「まずはジェットコースターからっしょ!」
「やっぱ並んでんなー」と携帯をいじりはじめる圭吾。
いつもそうだ。ご飯屋さんを並ぶ時も、映画を選ぶ時も、私の行きたいお店だって…
自分が話したい時だけ、自分が行きたい時だけ。
圭吾に悪気なんかない。でも私の気持ちなんかいつもおざなり。
なんでこんな気持ちになってまでこの人といるんだろう私__
「かぁー!ジェットコースター最高だったー!
お、なんか人いっぱいいる。誰かライブでもやんのかな」
ふと視線を人だかりに向けると、ペンライトを持つ人が多く居た。
もしかして…
もしかしたらまた竜司に会えるかもしれない。
そう思った時には圭吾を置いて、人だかりの中に足を運んでいた。
「みんな今日は来てくれてありがとうー!
今日初めて見る方も、ぜひ楽しんで行ってくださーい!」
竜司の声だった。
曲が始まり、キラキラのアイドルスマイルに、近くの自分のファンへとファンサをしている。
やっぱりアイドルなんだ。
1週間前に会った竜司とは、別人に感じてしまうほど完璧なアイドルだ。
「莉乃!勝手に走ってくなよ。まったくさー」
「竜司くんカッコイイー」
「あの赤の人かっこいい!」
と声が聞こえ、ステージに再度目を向ける。
丁度竜司のパートだったらしく、こちらを見た竜司と目が一瞬あった気がした。
一瞬目が、合ったかと思えばすぐに逸らされる。
まるで私なんて最初から認識していなかったかのようにステージは進んでいく。
(気のせいか…あの時好きで頭がおかしくなりそうとか言ってたのも、こうやって足を運んでもらうためだったのか。勘違いして痛いな私…)
ほら莉乃もういいだろ?次あれ乗ろうぜ」
「……うん、そうだね」
強引に腕を引かれ、莉乃は引き返す。
一度も振り返らなかったけれど、背中に刺さるような視線を感じていたのは、きっと自分の自惚れだ。
そう自分に言い聞かせながら。
―――
「今日は遊園地のコラボライブにご参加ありがとうございました!
今日はこれで終わりで、あとはマネージャーさんに任せているので、今後もよろしくお願いしますね!それじゃあ失礼します!」
バタンっと控え室のドアが閉まる。
「今日はいつもと違って小さい子どもとかもいて可愛かったなぁー!なぁ竜司」
「……ん、あぁ。そーだな」
「なんだよお前子供嫌いか?」
「そんなんじゃねーよ。ちょっと黙っててくれ」
ハイハーイとおちゃらけて他のメンバーに絡みに行くこいつは玲。
白色担当で俺より人気があるやつだ。
顔も王道王子様のような見た目をしていて、中身はチャラい。
アイドルが天職のようなやつだ。
ふと携帯の通知が光る。母からだ。
「今日ライブだったんでしょ?
遊園地手応えはどう〜|ω・`)
丁度莉乃ちゃんも彼氏と行ってたらしいわよ。
莉乃ちゃんママから聞いたのよ〜(^^)」
今は見たくない余計なお世話な通知だ。
(ふーん…今日一緒にいたやつが、莉乃を傷つける彼氏……ねぇ…。どう考えても、俺の方が莉乃を分かってる。あいつが何をされたら傷つくのかも、何をされたら笑うのかも。)
「……俺の方が、莉乃を幸せにできるだろ」
そう思った瞬間、自然と口元が緩んだ。
「おもしろくなってきた。欲しいものは、強引にでも徹底的に手に入れるまでだ。」
