推しが彼氏で、彼氏が推しで!?一爆イケアイドルの裏の顔は執着魔一
一章 推しからの認知…のはず…
私の推しは彼氏だ。
―――
「はぁぁあ。最近彼氏とも上手くいかないし、推しもいないし、マジで生活にハリがないよぉ!!!!」
カフェの机に突っ伏しながら盛大に溜め息をつくと、向かいに座る未央は冷めた紅茶のカップを手に、呆れたような視線を向けてきた。
「次はなにで上手くいってない訳ー?」
「別にこれってことはないんだけどさぁ…最近なんかずっとゲームしてたり、冷たいし、冷めてるのかなって…」
「あー。倦怠期か?そんなんだったら別れたら?」
「そんな冷たいこと言わないでよぉ、未央ちゃぁぁん」
私が泣きつくように甘えると、未央は「しょうがないなぁ」と苦笑いしながら、ポケットからスマートフォンを取り出した。
「あ!そうだ!私が今ハマってるアイドルのライブでも行く?」
「アイドル!!?? 未央ちゃんアイドル好きなの!?」
「最近ね! このvanillaってグループなんだけどさー」
未央が「これ見てよ」と画面をこちらに向けてくる。
画面に映し出されたメンバーたちの写真を何気なく覗き込んだ瞬間、私の思考はフリーズした。
中央で爽やかに微笑んでいる男の顔に、見覚えがありすぎる。
「えっ? え、え、えー?!」
「なに急に大声出して、うるさいなぁ」
「あ、いやごめん! なんでもない! なんか、見たことある顔だなーと思って!」
動悸が激しくなるのを必死で抑えながら、画面から目をそらす。
いや、まさかね。まさか、あの幼なじみが……アイドル?
そんなわけない。世界には自分に似ている人が3人いるって言うし、きっと他人の空似だ。
……いやでも、あまりにも似すぎている。
(嘘でしょ……? いやいや、あいつがアイドルなんて絶対違うはず!)
心の中でそう何度も自分に言い聞かせた。
「それで、莉乃は行くの?」
未央の問いかけで、ハッと現実に引き戻される。
「……うん! 行く!」
「ふーん。一応3月14日に無料でライブやるから、その時に見て推しができたらいいんじゃない?」
「そうだね! とりあえずその日見に行ってみる!」
「わかった! じゃあ私、これからバイトだから行くね」
荷物をまとめた未央は、じゃあね、と手を振ってカフェを出て行った。
取り残された私は、冷めきったドリンクのストローを弄り、ぽつりと呟く。
――ところで、未央ちゃんの推しって、メンバーの誰なんだろう。
―――
「ふんふーふん♪」
ライブの準備をしていると、携帯がプルルルと鳴った。
未央からであった。
「もしもし未央ちゃんー?」
「準備ちゃんとできてる?」
しっかり者の未央はいつも出かける前に、莉乃に電話をくれる。
今日は楽しめるようにと、アイドルの曲を履修してくるようにと伝えられていた。
「もっちろん!!未央ちゃんに言われた通りのものを揃えましたよー!」
「よろしい!ペンライトは今回は私の貸してあげるし、いいなと思う人の色つけたらいいから!」
「はーい!ありがとう。じゃあ10:00にいつものカフェの前で!」
そう言って通話を切る。
あれから未央に言われて見たミュージックビデオは、みんなかっこいい人ばかりだった。
他人の空似だと思っていた爽やかな笑顔の男は、幼馴染で間違いなかった。
でも、幼馴染がアイドルだなんてどうしても信じられない。
(だってあの竜司だよ??
普段からケンカばっかりして、常にからかってきたウザ竜司だよ?
あのウザ竜司がアイドルなんて出来るわけないのに!
だってお母さんもそんなこと言ってなかった…)
「ってやばい!もう家出なきゃ!!未央ちゃんに怒られる…」
(色々モヤモヤするところはあるけど、とりあえず行くしかない!)
ドタドタと階段を掛けおり、外へ出た。
こんなに走ったら汗をかいてしまうと思いつつも、春の木漏れ日が汗を滲ませる。
「莉乃遅いよー!」
「ごめんごめん!ハァ疲れた。走ったから許して…」
「しょうがないなぁ。いくよ!」
未央の導きで会場へと向かう。
心做しか未央はいつもより楽しそうだ。
(推しってそんなに良いものなのかな…少し羨ましいかも…)
そんなことを思っていると着いたようだった。
「ここだよ!チケット準備して!」
「わかった!」
ガサゴソとカバンからスマホを取り出す。
昨日未央から分配されたチケットをアプリで起動する。
「できた?」
「大丈夫」と答えながら中に入ると、そこは少し薄暗いライブハウスだった。
可愛くおめかしした女の子たち、最前列で固まっている女の子たち。
お腹に響くような重低音が漂う空間に、緊張と「もしかしたらあの幼馴染に会うのかもしれない」という異質感で、自然と鼓動が早くなっていく。
「ドリンクはここで買って、特典会っていうのがライブの後にあるのね。
その時に一緒に写真がとれる、今はいらないと思うから待ってて!あとでも買えるし!」
(え、特典会……? 一緒に写真撮るの?
てことは……もし本当に竜司だったら、目の前で話して写真撮るってこと!?)
推しは画面の中にしか存在しないと思って生きてきた私にとって、推しと写真が撮れるというシステムはあまりにも次元が違いすぎた。
すごいなと感心するのも束の間、一気に背中を冷や汗が吹き抜ける。
ドクドクと心臓の音がうるさくなるのを感じながら、未央が会計を済ませるのを待つ間、壁に貼られたポスターを食い入るように見つめた。
「莉乃お待たせ!いくよー!」
「うん!」
「そーいえば、気になる子とかいた?」
「うーん…まだあんまりかなぁ」
「まぁ実際見た方が良かったりするし!今日は楽しんでくれればいいから!」
そう言う未央は楽しそうだった。
「やっぱ土曜日だと人の入りがいいかもなぁ…」
未央は周りをキョロキョロと見回す。
普段しっかり者の未央がオドオドしつつもガチ勢の顔をしているように見える。一体何をしているのだろうか。
「未央ちゃん何してるの?」
「ちょっと待ってて。すみません誰推しですか?」
「えっと、玲くんです!」
「あ!そーなんですね!ありがとうございます。」
「こうやって両隣と前は推しメンが被らないようにしなきゃ行けないんだよ。
アイドルからのレスが誰になのかわかるように。」
ボソッと暗黙のルールだけどね。と笑いながら私にだけ聴こえるように教えてくれた。
(怖い…何それ………
アイドルってみんなで楽しみながら推すものじゃないの…?でも郷に入ったら郷に従うもんだよな…難しい…)
「なるほど…」
「莉乃も隣がいないうちにペンライト早く光らせな!」
「え!何色にしたらいいかわかんない…」
「とりあえず、この間見たことあるって言ってた子のメンカラ赤だから、赤付けな!」
「…え、っあ!うん」
未央は緑の子が推しらしい。そして、その隣は白の子、その隣は青色、私の隣はピンクの子、黄色の子…
色とりどりだなぁ…と感心した。
「始まるよ!赤の子が歌ってる時だけ、こうやってペンライト目立つように上にあげるんだよ!」
うん。と答えたがあまり分かっていない。
(とりあえず竜司が歌ってたら降ればいいんだよね…?竜司の歌なんて聞いたことないや…。あ、嫌でも幼稚園の頃聞いた気もする?そうじゃん!ヘタクソだったなぁ…)
今も下手だったら笑ってやろうと思っていると、さっきより重低音が強い音楽と、派手なライトが光り輝き、アイドルが登場した。
歓声が上がるのかなと思ったが意外と静かだった。
自己紹介もなく1曲目が始まる。
「莉乃!この曲赤の子からだよ!ペンラね!終わったら下げるんだよ!」
音楽の邪魔にならないようボソッと伝えてくれる。
すかさずペンライトをあげる。
少しフライングになってしまい、竜司に一瞬こちらをチラッと見られた気がする。
ドクンと鼓動が跳ねる。
(ヤバッ…見られた?いや…客席が近いとはいえ一瞬で私だとわかるはずがない…ないよね…?)
アイドルを見に来ているとはいえ、幼馴染が来てるとは思わないだろう。
それ以降は最初に、未央が見せてくれたような爽やかなアイドルスマイルでライブをしていた。
(竜司って意外と歌上手いんだ…?え、意外とサビの時に前に出てくる?センターなの?え?意外と重要そうなパートしてる?…あのウザさ隠し上手すぎじゃない…)
私の知っている竜司は、ちっさいのに、態度だけはでかくていっっつつもくせ毛の私をからかってきた。
本当にッ許せないんだから!!!!
でも、今の竜司はサイダーのCMでもできそうなくらい爽やかだし、歌も低めの声なのに甘くて…
なんでこんなにドキドキしてるんだろう…
「…の!莉乃!」
「…え?!あ、なに!」
「もう終わったよ!どう?特典会買う?」
ライブが終わっていたようだ。
気づかないくらいに没頭して、頭がボーッとしてしまっていた。
「特典会…か…」
「1枚が1,000円でその後話す時間が30秒かな?買うならあそこ行って!私は翠くんの列並ぶから!どこにいるかだけあと連絡してね!じゃ!」
翠…くん?って人の特典会に未央は行ったようだ。
どうしよう。竜司の列もかなり並んでる…
「竜司くんあとチェキ残り少ないです!」
(結構人気メンバーなんだ…1,000円なら?まぁ…チケ代今日タダだし?いいもの見せてもらったっていうお礼にでも…?まぁ別に?竜司と話したいとか写真撮りたいとかじゃないし…?)
買ってしまったー。
(その場のノリ怖…。だって、お姉さんが竜司くん残りあと3枚ですがどうします?とか言われて、3枚くらいなら?と思って買っちゃったよぉ)
(特典会の列に並んだら実感湧いてきた。どうしよ。なんて反応される?またバカにされるかも。
他の子みたいにあんな風に対応してくれるかなぁ…いやいや何期待してんだろうか。普通に感謝すればいいだけ。いいステージだったとね!)
「はい次の方〜カード貰いますねー!
竜司さん3枚でーす。」
「はじめましてだよねー!来てくれてありがとう!座って座って」
「はいチーズ。もう1枚行きますー」
カシャッー
竜司はあっという間に3つもポーズをして写真を撮り終える。
不覚にも、さすがアイドルなのかと思ってしまった。
「お名前なんて言うの?」
「…莉乃です。」
「可愛い名前だね!莉乃ちゃんはどうして今日来てくれたの?」
「友達に誘われて…」
「そうなんだ!えーそのお友達に感謝だなぁ!莉乃ちゃんに会えて嬉しい!また来てね!」
そう言ってキラキラした笑顔でこちらへ手を振る竜司。
あれ?気づいていないのか…?
(え…なーんだ!恥ずかしいじゃん!私だけ意識しちゃって、気づいちゃって!そりゃそうだよねもう9年も会ってないんだし、くせ毛でもないし…)
あれ…なんで気づいて貰えなくて寂しいとか思っちゃってんだろ。
竜司は私の事なんか別に好きじゃなかったじゃん。
バカにされてたじゃん。むしろ嫌われてたのにあんなに営業スマイルで対応してた…
なんで…
―――
「りゅーじっ!おつー!今日の特典会の新規の子可愛かったねー!」
「…あぁ、うん、そうだな。」
「なんだよ釣れないなー。まだ新規だしいくらでも俺がその子のことファンにしようと思えばできるんだぜ?」
「…お前さ…タヒにたいのか?」
ひょえー、こわーと1人楽屋でゲラゲラと笑うメンバー。
正直俺が1番びっくりしているし、心臓のバクバクがおさまらない。
中学で俺がサッカーの強豪校に行く為に、引っ越したからそこから会っていない。
…9年か。
長かった。本当はもっとグループがテレビに映るくらい人気になってから、俺から会いに行きたかった。
ダサいだろまだ今の俺。
「はぁああ…クソッ…」
でも俺がバカにしてたクセ毛も、サラサラのストレートの髪の毛になり、あの頃とは違った大人びた顔なのに可愛くて、…いい匂いがして。
母親から秘密裏に貰っていた莉乃の写真より何十倍も可愛いかった。
俺から会いに行こうと思ってたのに、莉乃から来やがって。
「絶対に逃がさねぇ。」
―――
一章 推しからの認知…のはず…
私の推しは彼氏だ。
―――
「はぁぁあ。最近彼氏とも上手くいかないし、推しもいないし、マジで生活にハリがないよぉ!!!!」
カフェの机に突っ伏しながら盛大に溜め息をつくと、向かいに座る未央は冷めた紅茶のカップを手に、呆れたような視線を向けてきた。
「次はなにで上手くいってない訳ー?」
「別にこれってことはないんだけどさぁ…最近なんかずっとゲームしてたり、冷たいし、冷めてるのかなって…」
「あー。倦怠期か?そんなんだったら別れたら?」
「そんな冷たいこと言わないでよぉ、未央ちゃぁぁん」
私が泣きつくように甘えると、未央は「しょうがないなぁ」と苦笑いしながら、ポケットからスマートフォンを取り出した。
「あ!そうだ!私が今ハマってるアイドルのライブでも行く?」
「アイドル!!?? 未央ちゃんアイドル好きなの!?」
「最近ね! このvanillaってグループなんだけどさー」
未央が「これ見てよ」と画面をこちらに向けてくる。
画面に映し出されたメンバーたちの写真を何気なく覗き込んだ瞬間、私の思考はフリーズした。
中央で爽やかに微笑んでいる男の顔に、見覚えがありすぎる。
「えっ? え、え、えー?!」
「なに急に大声出して、うるさいなぁ」
「あ、いやごめん! なんでもない! なんか、見たことある顔だなーと思って!」
動悸が激しくなるのを必死で抑えながら、画面から目をそらす。
いや、まさかね。まさか、あの幼なじみが……アイドル?
そんなわけない。世界には自分に似ている人が3人いるって言うし、きっと他人の空似だ。
……いやでも、あまりにも似すぎている。
(嘘でしょ……? いやいや、あいつがアイドルなんて絶対違うはず!)
心の中でそう何度も自分に言い聞かせた。
「それで、莉乃は行くの?」
未央の問いかけで、ハッと現実に引き戻される。
「……うん! 行く!」
「ふーん。一応3月14日に無料でライブやるから、その時に見て推しができたらいいんじゃない?」
「そうだね! とりあえずその日見に行ってみる!」
「わかった! じゃあ私、これからバイトだから行くね」
荷物をまとめた未央は、じゃあね、と手を振ってカフェを出て行った。
取り残された私は、冷めきったドリンクのストローを弄り、ぽつりと呟く。
――ところで、未央ちゃんの推しって、メンバーの誰なんだろう。
―――
「ふんふーふん♪」
ライブの準備をしていると、携帯がプルルルと鳴った。
未央からであった。
「もしもし未央ちゃんー?」
「準備ちゃんとできてる?」
しっかり者の未央はいつも出かける前に、莉乃に電話をくれる。
今日は楽しめるようにと、アイドルの曲を履修してくるようにと伝えられていた。
「もっちろん!!未央ちゃんに言われた通りのものを揃えましたよー!」
「よろしい!ペンライトは今回は私の貸してあげるし、いいなと思う人の色つけたらいいから!」
「はーい!ありがとう。じゃあ10:00にいつものカフェの前で!」
そう言って通話を切る。
あれから未央に言われて見たミュージックビデオは、みんなかっこいい人ばかりだった。
他人の空似だと思っていた爽やかな笑顔の男は、幼馴染で間違いなかった。
でも、幼馴染がアイドルだなんてどうしても信じられない。
(だってあの竜司だよ??
普段からケンカばっかりして、常にからかってきたウザ竜司だよ?
あのウザ竜司がアイドルなんて出来るわけないのに!
だってお母さんもそんなこと言ってなかった…)
「ってやばい!もう家出なきゃ!!未央ちゃんに怒られる…」
(色々モヤモヤするところはあるけど、とりあえず行くしかない!)
ドタドタと階段を掛けおり、外へ出た。
こんなに走ったら汗をかいてしまうと思いつつも、春の木漏れ日が汗を滲ませる。
「莉乃遅いよー!」
「ごめんごめん!ハァ疲れた。走ったから許して…」
「しょうがないなぁ。いくよ!」
未央の導きで会場へと向かう。
心做しか未央はいつもより楽しそうだ。
(推しってそんなに良いものなのかな…少し羨ましいかも…)
そんなことを思っていると着いたようだった。
「ここだよ!チケット準備して!」
「わかった!」
ガサゴソとカバンからスマホを取り出す。
昨日未央から分配されたチケットをアプリで起動する。
「できた?」
「大丈夫」と答えながら中に入ると、そこは少し薄暗いライブハウスだった。
可愛くおめかしした女の子たち、最前列で固まっている女の子たち。
お腹に響くような重低音が漂う空間に、緊張と「もしかしたらあの幼馴染に会うのかもしれない」という異質感で、自然と鼓動が早くなっていく。
「ドリンクはここで買って、特典会っていうのがライブの後にあるのね。
その時に一緒に写真がとれる、今はいらないと思うから待ってて!あとでも買えるし!」
(え、特典会……? 一緒に写真撮るの?
てことは……もし本当に竜司だったら、目の前で話して写真撮るってこと!?)
推しは画面の中にしか存在しないと思って生きてきた私にとって、推しと写真が撮れるというシステムはあまりにも次元が違いすぎた。
すごいなと感心するのも束の間、一気に背中を冷や汗が吹き抜ける。
ドクドクと心臓の音がうるさくなるのを感じながら、未央が会計を済ませるのを待つ間、壁に貼られたポスターを食い入るように見つめた。
「莉乃お待たせ!いくよー!」
「うん!」
「そーいえば、気になる子とかいた?」
「うーん…まだあんまりかなぁ」
「まぁ実際見た方が良かったりするし!今日は楽しんでくれればいいから!」
そう言う未央は楽しそうだった。
「やっぱ土曜日だと人の入りがいいかもなぁ…」
未央は周りをキョロキョロと見回す。
普段しっかり者の未央がオドオドしつつもガチ勢の顔をしているように見える。一体何をしているのだろうか。
「未央ちゃん何してるの?」
「ちょっと待ってて。すみません誰推しですか?」
「えっと、玲くんです!」
「あ!そーなんですね!ありがとうございます。」
「こうやって両隣と前は推しメンが被らないようにしなきゃ行けないんだよ。
アイドルからのレスが誰になのかわかるように。」
ボソッと暗黙のルールだけどね。と笑いながら私にだけ聴こえるように教えてくれた。
(怖い…何それ………
アイドルってみんなで楽しみながら推すものじゃないの…?でも郷に入ったら郷に従うもんだよな…難しい…)
「なるほど…」
「莉乃も隣がいないうちにペンライト早く光らせな!」
「え!何色にしたらいいかわかんない…」
「とりあえず、この間見たことあるって言ってた子のメンカラ赤だから、赤付けな!」
「…え、っあ!うん」
未央は緑の子が推しらしい。そして、その隣は白の子、その隣は青色、私の隣はピンクの子、黄色の子…
色とりどりだなぁ…と感心した。
「始まるよ!赤の子が歌ってる時だけ、こうやってペンライト目立つように上にあげるんだよ!」
うん。と答えたがあまり分かっていない。
(とりあえず竜司が歌ってたら降ればいいんだよね…?竜司の歌なんて聞いたことないや…。あ、嫌でも幼稚園の頃聞いた気もする?そうじゃん!ヘタクソだったなぁ…)
今も下手だったら笑ってやろうと思っていると、さっきより重低音が強い音楽と、派手なライトが光り輝き、アイドルが登場した。
歓声が上がるのかなと思ったが意外と静かだった。
自己紹介もなく1曲目が始まる。
「莉乃!この曲赤の子からだよ!ペンラね!終わったら下げるんだよ!」
音楽の邪魔にならないようボソッと伝えてくれる。
すかさずペンライトをあげる。
少しフライングになってしまい、竜司に一瞬こちらをチラッと見られた気がする。
ドクンと鼓動が跳ねる。
(ヤバッ…見られた?いや…客席が近いとはいえ一瞬で私だとわかるはずがない…ないよね…?)
アイドルを見に来ているとはいえ、幼馴染が来てるとは思わないだろう。
それ以降は最初に、未央が見せてくれたような爽やかなアイドルスマイルでライブをしていた。
(竜司って意外と歌上手いんだ…?え、意外とサビの時に前に出てくる?センターなの?え?意外と重要そうなパートしてる?…あのウザさ隠し上手すぎじゃない…)
私の知っている竜司は、ちっさいのに、態度だけはでかくていっっつつもくせ毛の私をからかってきた。
本当にッ許せないんだから!!!!
でも、今の竜司はサイダーのCMでもできそうなくらい爽やかだし、歌も低めの声なのに甘くて…
なんでこんなにドキドキしてるんだろう…
「…の!莉乃!」
「…え?!あ、なに!」
「もう終わったよ!どう?特典会買う?」
ライブが終わっていたようだ。
気づかないくらいに没頭して、頭がボーッとしてしまっていた。
「特典会…か…」
「1枚が1,000円でその後話す時間が30秒かな?買うならあそこ行って!私は翠くんの列並ぶから!どこにいるかだけあと連絡してね!じゃ!」
翠…くん?って人の特典会に未央は行ったようだ。
どうしよう。竜司の列もかなり並んでる…
「竜司くんあとチェキ残り少ないです!」
(結構人気メンバーなんだ…1,000円なら?まぁ…チケ代今日タダだし?いいもの見せてもらったっていうお礼にでも…?まぁ別に?竜司と話したいとか写真撮りたいとかじゃないし…?)
買ってしまったー。
(その場のノリ怖…。だって、お姉さんが竜司くん残りあと3枚ですがどうします?とか言われて、3枚くらいなら?と思って買っちゃったよぉ)
(特典会の列に並んだら実感湧いてきた。どうしよ。なんて反応される?またバカにされるかも。
他の子みたいにあんな風に対応してくれるかなぁ…いやいや何期待してんだろうか。普通に感謝すればいいだけ。いいステージだったとね!)
「はい次の方〜カード貰いますねー!
竜司さん3枚でーす。」
「はじめましてだよねー!来てくれてありがとう!座って座って」
「はいチーズ。もう1枚行きますー」
カシャッー
竜司はあっという間に3つもポーズをして写真を撮り終える。
不覚にも、さすがアイドルなのかと思ってしまった。
「お名前なんて言うの?」
「…莉乃です。」
「可愛い名前だね!莉乃ちゃんはどうして今日来てくれたの?」
「友達に誘われて…」
「そうなんだ!えーそのお友達に感謝だなぁ!莉乃ちゃんに会えて嬉しい!また来てね!」
そう言ってキラキラした笑顔でこちらへ手を振る竜司。
あれ?気づいていないのか…?
(え…なーんだ!恥ずかしいじゃん!私だけ意識しちゃって、気づいちゃって!そりゃそうだよねもう9年も会ってないんだし、くせ毛でもないし…)
あれ…なんで気づいて貰えなくて寂しいとか思っちゃってんだろ。
竜司は私の事なんか別に好きじゃなかったじゃん。
バカにされてたじゃん。むしろ嫌われてたのにあんなに営業スマイルで対応してた…
なんで…
―――
「りゅーじっ!おつー!今日の特典会の新規の子可愛かったねー!」
「…あぁ、うん、そうだな。」
「なんだよ釣れないなー。まだ新規だしいくらでも俺がその子のことファンにしようと思えばできるんだぜ?」
「…お前さ…タヒにたいのか?」
ひょえー、こわーと1人楽屋でゲラゲラと笑うメンバー。
正直俺が1番びっくりしているし、心臓のバクバクがおさまらない。
中学で俺がサッカーの強豪校に行く為に、引っ越したからそこから会っていない。
…9年か。
長かった。本当はもっとグループがテレビに映るくらい人気になってから、俺から会いに行きたかった。
ダサいだろまだ今の俺。
「はぁああ…クソッ…」
でも俺がバカにしてたクセ毛も、サラサラのストレートの髪の毛になり、あの頃とは違った大人びた顔なのに可愛くて、…いい匂いがして。
母親から秘密裏に貰っていた莉乃の写真より何十倍も可愛いかった。
俺から会いに行こうと思ってたのに、莉乃から来やがって。
「絶対に逃がさねぇ。」
―――
