モブ令嬢と敵国赤ちゃんの育児日記〜婚約破棄寸前ですが後の皇帝に国が滅ぼされないよう頑張ります〜

エミリアside

 私は、唯一の前世チート――絵を描くことだけを楽しみに、暇な子爵令嬢として日々を過ごしていた。

 父が死んだことにより、残ったのは子爵位だけである。

 女は跡を継げないので、この爵位は私の子供に与えられるが、領地もないので売る他にメリットは無い。

「あら、お嬢様?何を持って帰ってきたんですか?」

 エミリアは肩をビクッと跳ねさせた。

「あ、ま、マーサ…」
 
(いつも声をかけないくせに、こんな時だけめざといわね)


 おくるみに包んで抱え込んだものが赤ちゃんだとバレないように、顔だけ振り向く。


「あ、あの。猫をひろって…」

「まーーーー!!おやめください!

お嬢様は自分のお立場を理解されておりますか!?

伯爵家の温情により、かろうじて住まいやご飯を頂いてるお立場ですよ!??」
 
「あぶぅ…」
「わ、わかっているんですけど…その、えへへ」

(何かまた聞こえた気が…いや気のせいか、それよりどうしよう。

この子が獣人とバレたら、私なんか、この子共々追い出されちゃうかも)

 何とか可愛く笑ってやり過ごそうとしても、マーサには無意味なようで、ずんずんこちらへと近寄ってこようとする。

(あわわわわわわ)

 エミリアが内心パニックになっていたその時ーー

 カーン

 何処からともなく哺乳瓶が飛んできて、マーサの額を直撃した。その後、不自然なくらいの跳ね返り力で、弧を描き赤ちゃんの手に戻ってくる。

 マーサはその場でどさりと仰向けに倒れ、エミリアはそーっと近寄り顔の前で手を振ってみるが、完全に気絶している。そしてやはり、額が赤い。

 一瞬、この赤ちゃんが投げたのかと思ったけれどーー赤ちゃんは楽しそうにニコニコして「キャハハハハッ♪」と天使の笑顔で笑っている。

(まさかね。奇跡的に、赤ちゃんが振り回した哺乳瓶が直撃したのかな?)

 兎にも角にも、この場を急いで離れて、そそくさと自分の屋敷へと戻った。