誰もいない放課後の屋上。
沈みかけた夕日と、昇り始めた星々が溶け合う「プリズムの窓辺」の境界線で、私たちは並んでフェンスに背を預けていた。
ノートを見せるという口実で図書室から連れ出されたものの、屋上に着いた途端、颯太くんはノートを開くこともせず、静かにため息をついた。その横顔は、やはりどこか寂しげだ。
「……颯太くん」
私は思い切って、ずっと胸に引っかかっていた疑問を口にした。
「どうして学校では、いつもあんなに無理して笑ってるの? ……昨日の夜のメッセージも、昼休みの屋上も、私といる時のほうが、ずっと本物の颯太くんに見える」
私の言葉に、颯太くんはピクリと体を強張らせた。
彼はフイッと私から目をそらし、フェンスを握る手に力を込める。いつものあまのじゃくな態度で「別に無理なんかしてねぇよ」と突っぱねるかと思った。けれど、彼の口からこぼれたのは、低く乾いた笑い声だった。
「……気づいてたんだ。お前って、本当に余計なとこばっかり見てる」
そう言う彼の瞳には、いつもの眩しい光はなかった。
「中学の頃さ……。俺、今みたいに愛想よく振る舞えなくて、もっとぶっきらぼうで、自分の思ったことをすぐ口にしてたんだ。不器用だったから、周りとうまくやれなくてさ。……そしたらある日、一番信じてた連中に言われたんだよ。『お前って本当に可愛げがない。一緒にいてつまんない』って」
颯太くんの冷たい手が、かすかに震え始める。
「次の日から、誰も俺に話しかけなくなった。……その時知ったんだ。本当の自分なんて、誰も求めてないんだって。他人が俺に期待する『理想の横山颯太』を演じて、完璧な笑顔を貼り付けていれば、誰も俺を嫌わない。誰も傷つかないし、俺も傷つかずに済む」
彼は自嘲気味に口元を歪めた。
「学校にいるあの『完璧な王子様』は、ただの自己防衛の塊だよ。みんな、俺の見た目や肩書きが好きなだけで、中身なんてどうでもいいんだ。……だけど」
そこで言葉を区切ると、颯太くんはゆっくりと私の方を振り返った。
夕暮れの光に照らされた彼の瞳が、不安そうに揺れている。
「……輝だけは違った」
「え……?」
「図書室の窓からお前を見てた時、お前は俺の噂話にも、外の騒ぎにも興味なさそうに、ただ静かに本を読んでた。あっちの世界の俺を、一切見てなかった。……その姿を見てたら、なんだか無性に羨ましくなって、気づいたら窓から滑り込んでた」
彼は一歩、私との距離を詰める。そして、私の制服の袖を、まるで迷子の子どものようにぎゅっと掴んだ。
「俺さ、お前の前だと上手く笑えないし、可愛げのないあまのじゃくなことばっかり言うだろ? ……でも、これが俺の、本当の格好悪い中身なんだよ。……なぁ、輝。こんな俺でも、嫌いにならないでくれる?」
昼間の人気者からは想像もつかない、切実で、消え入りそうな告白だった。
沈みかけた夕日と、昇り始めた星々が溶け合う「プリズムの窓辺」の境界線で、私たちは並んでフェンスに背を預けていた。
ノートを見せるという口実で図書室から連れ出されたものの、屋上に着いた途端、颯太くんはノートを開くこともせず、静かにため息をついた。その横顔は、やはりどこか寂しげだ。
「……颯太くん」
私は思い切って、ずっと胸に引っかかっていた疑問を口にした。
「どうして学校では、いつもあんなに無理して笑ってるの? ……昨日の夜のメッセージも、昼休みの屋上も、私といる時のほうが、ずっと本物の颯太くんに見える」
私の言葉に、颯太くんはピクリと体を強張らせた。
彼はフイッと私から目をそらし、フェンスを握る手に力を込める。いつものあまのじゃくな態度で「別に無理なんかしてねぇよ」と突っぱねるかと思った。けれど、彼の口からこぼれたのは、低く乾いた笑い声だった。
「……気づいてたんだ。お前って、本当に余計なとこばっかり見てる」
そう言う彼の瞳には、いつもの眩しい光はなかった。
「中学の頃さ……。俺、今みたいに愛想よく振る舞えなくて、もっとぶっきらぼうで、自分の思ったことをすぐ口にしてたんだ。不器用だったから、周りとうまくやれなくてさ。……そしたらある日、一番信じてた連中に言われたんだよ。『お前って本当に可愛げがない。一緒にいてつまんない』って」
颯太くんの冷たい手が、かすかに震え始める。
「次の日から、誰も俺に話しかけなくなった。……その時知ったんだ。本当の自分なんて、誰も求めてないんだって。他人が俺に期待する『理想の横山颯太』を演じて、完璧な笑顔を貼り付けていれば、誰も俺を嫌わない。誰も傷つかないし、俺も傷つかずに済む」
彼は自嘲気味に口元を歪めた。
「学校にいるあの『完璧な王子様』は、ただの自己防衛の塊だよ。みんな、俺の見た目や肩書きが好きなだけで、中身なんてどうでもいいんだ。……だけど」
そこで言葉を区切ると、颯太くんはゆっくりと私の方を振り返った。
夕暮れの光に照らされた彼の瞳が、不安そうに揺れている。
「……輝だけは違った」
「え……?」
「図書室の窓からお前を見てた時、お前は俺の噂話にも、外の騒ぎにも興味なさそうに、ただ静かに本を読んでた。あっちの世界の俺を、一切見てなかった。……その姿を見てたら、なんだか無性に羨ましくなって、気づいたら窓から滑り込んでた」
彼は一歩、私との距離を詰める。そして、私の制服の袖を、まるで迷子の子どものようにぎゅっと掴んだ。
「俺さ、お前の前だと上手く笑えないし、可愛げのないあまのじゃくなことばっかり言うだろ? ……でも、これが俺の、本当の格好悪い中身なんだよ。……なぁ、輝。こんな俺でも、嫌いにならないでくれる?」
昼間の人気者からは想像もつかない、切実で、消え入りそうな告白だった。


