図書室の窓から、素直じゃない恋が降ってきた

その日の夜、私のスマートフォンに、見慣れないアカウントから通知が届いた。

『横山。一応、登録しといて』

画面に表示されたぶっきらぼうな文字に、私は思わずクスッと笑ってしまった。屋上であんなに切実に迫ってきたのに、メッセージだと急に素っ気ない。

『相川輝です。よろしくお願いします』

私が返信すると、数分間の沈黙のあと、少し慌てたようなメッセージが返ってきた。

『……別に、そんな硬くならなくていいし。っていうか、輝は今何してんの?』

『さっきまで、今日図書室から借りてきた本を読んでました』

『ふーん。……まあ、輝が静かに本めくってるとこ、窓の外から見てるの、悪くなかった。……変な意味じゃないからな』

画面の向こうで、顔を真っ赤にしてそっぽを向いている彼の姿が簡単に想像できた。本当は話したくてたまらないくせに、素直になれないらしい。私たちはそれから、好きな音楽やクラスの出来事についてメッセージを交わした。彼が時折見せる「照れ隠しのトゲ」が、なんだか愛おしくて、夜が更けるまで胸のときめきが止まらなかった。
けれど翌朝、学校へ行くと、現実は冷たく私を引き戻す。
廊下ですれ違った颯太くんは、たくさんの友達に囲まれ、眩しいほどの完璧な笑顔を振りまいていた。

「あ、横山くん! 今日の部活さ――」

「あはは、マジで? いいよ、後で予定合わせよう」

その視線が、一瞬だけ私を捉えた。けれど、彼はフイッと意地悪に目をそらし、何事もなかったかのように通り過ぎていく。
わかってはいる。学校の人気者の彼が、目立たない私と親しげに話せばすぐに噂になってしまう。でも、昨夜の甘い時間が嘘だったかのような態度に、胸の奥がちくりと痛んだ。
そんな切なさを抱えたまま迎えた、数日後の昼休み。
教室の喧騒に馴染めず、一人で図書室へ向かおうと廊下を歩いていると、ポケットの中でスマホが短く震えた。

『いま、屋上。……別に寂しいわけじゃないけど、暇なら来れば?』

強がったメッセージに、心臓が跳ね上がる。
私は周囲の目を気にしながら、早足で階段を駆け上がった。重い扉を押し開けると、そこには強い日差しの中、フェンスに背を預けて座り込んでいる颯太くんの姿があった。

「颯太くん……!」

息を切らして駆け寄る私に、彼は顔を上げた。
その表情を見て、私は息を呑む。昼間の完璧な笑顔はどこにもなく、前髪の隙間からのぞく瞳は、ひどく疲れ切っていた。

「……遅い」

彼は立ち上がると、不機嫌そうな声を出しながら、私の答えを待たずにその大きな体で私をギュッと抱きしめてきた。

「ごめん、急に呼び出して。……でも、あっちの世界にいると、全員が偽物の僕を求めてくるから、頭おかしくなりそうなんだよ」

背中に回された彼の腕が、かすかに震えている。強がった言葉とは裏腹に、私を求める力はひどく強かった。

「……輝の匂い嗅いでると、なんか落ち着く。……だから、いまは黙って抱きしめられてろ」

耳元でぶつぶつと呟く彼の背中に、私はそっと手を添えた。学校の有名人としての重圧を、彼は一人で抱え込んで、こうして私にだけ「甘えたい本音」をぶつけてくれている。

「うん。大丈夫だよ、颯太くん」

私が優しく囁くと、彼は顔を真っ赤にして腕の力を少し緩めた。そして、「……生意気」と小さく悪態をつきながら、私にしか見せない、照れくさそうな素の笑顔を浮かべた。