「……お前、それ本当に言ってんの?」
翌週の昼休み。
いつもなら他のクラスの生徒までわざわざ覗きにくるほど賑やかな2年2組の教室で、小さな、けれど確実な地殻変動が起きていた。
きっかけは、クラスの男子が颯太くんに「次の体育のサッカー、お前フォワードな。絶対勝とうぜ」と、いつもの「完璧なエース」としての期待を押し付けた時のことだった。
いつもなら「うん、任せて。みんなで頑張ろうね」と完璧な笑顔で引き受けるはずの颯太くんが、あからさまに嫌そうな顔をして、「やだ。俺、走るのしんどいからディフェンスがいい」とぶっきらぼうに言い放ったのだ。
「え……?」
声をかけた男子だけでなく、周りで聞き耳を立てていた女子たちからも、一瞬にして会話が止まる。
教室が静まり返る中、颯太くんはフイッと窓の外に目を向け、小さくため息をついた。
「だって、俺、本当はそんなに体力ねぇし。お前ら、俺に期待しすぎ」
あまのじゃくで、少しだけ可愛げのない、けれど本物の言葉。
男子生徒は一瞬呆気に取られた後、見たこともない颯太くんの態度に、なぜか「ぷっ」と吹き出した。
「なんだよそれ! 横山、お前いつも完璧ぶってるクセに、そんなだるそうなこと言うんだな!」
「ぶってねぇよ。……これが普通なんだよ」
少しむっとしながら、それでも否定しきれずにそっぽを向く颯太くんの姿に、今度は周りの男子たちからもドッと笑い声が上がった。
「なんだよ、意外と親近感湧くじゃん」「じゃあ俺がフォワードやるわ!」と、クラスの男子たちが、これまでのような『遠い王子様』としてではなく、『等身大の友達』として颯太くんの肩を叩いていく。
その様子を、私は廊下の窓からそっと見守っていた。
胸がじんわりと温かくなる。颯太くんがずっと恐れていた「本当の自分を見せたら嫌われる」という呪いが、少しずつ、優しく解けていくのが分かった。
ふと視線を感じてそちらを見ると、教室の端で、琉楓ちゃんが腕を組んでこちらを睨んでいた。
けれど、その瞳に以前のような鋭い敵意はない。彼女はフンッと鼻を鳴らすと、
「……本当、王子様返上ね。バカみたい」
と小さく呟いて、自分のグループの輪へと戻っていった。彼女なりの、静かな見届け方なのだと思う。
「――あ、いた」
不意に後ろから声をかけられ、振り返ると、そこには少し耳を赤くした颯太くんが立っていた。手には、いつものノートが握られている。
「何、ニヤニヤして見てんだよ。……ほら、行くぞ」
「うん!」
いつものぶっきらぼうな口調。けれど、その目は少しだけ誇らしげで、どこかホッとしたように揺れていた。
翌週の昼休み。
いつもなら他のクラスの生徒までわざわざ覗きにくるほど賑やかな2年2組の教室で、小さな、けれど確実な地殻変動が起きていた。
きっかけは、クラスの男子が颯太くんに「次の体育のサッカー、お前フォワードな。絶対勝とうぜ」と、いつもの「完璧なエース」としての期待を押し付けた時のことだった。
いつもなら「うん、任せて。みんなで頑張ろうね」と完璧な笑顔で引き受けるはずの颯太くんが、あからさまに嫌そうな顔をして、「やだ。俺、走るのしんどいからディフェンスがいい」とぶっきらぼうに言い放ったのだ。
「え……?」
声をかけた男子だけでなく、周りで聞き耳を立てていた女子たちからも、一瞬にして会話が止まる。
教室が静まり返る中、颯太くんはフイッと窓の外に目を向け、小さくため息をついた。
「だって、俺、本当はそんなに体力ねぇし。お前ら、俺に期待しすぎ」
あまのじゃくで、少しだけ可愛げのない、けれど本物の言葉。
男子生徒は一瞬呆気に取られた後、見たこともない颯太くんの態度に、なぜか「ぷっ」と吹き出した。
「なんだよそれ! 横山、お前いつも完璧ぶってるクセに、そんなだるそうなこと言うんだな!」
「ぶってねぇよ。……これが普通なんだよ」
少しむっとしながら、それでも否定しきれずにそっぽを向く颯太くんの姿に、今度は周りの男子たちからもドッと笑い声が上がった。
「なんだよ、意外と親近感湧くじゃん」「じゃあ俺がフォワードやるわ!」と、クラスの男子たちが、これまでのような『遠い王子様』としてではなく、『等身大の友達』として颯太くんの肩を叩いていく。
その様子を、私は廊下の窓からそっと見守っていた。
胸がじんわりと温かくなる。颯太くんがずっと恐れていた「本当の自分を見せたら嫌われる」という呪いが、少しずつ、優しく解けていくのが分かった。
ふと視線を感じてそちらを見ると、教室の端で、琉楓ちゃんが腕を組んでこちらを睨んでいた。
けれど、その瞳に以前のような鋭い敵意はない。彼女はフンッと鼻を鳴らすと、
「……本当、王子様返上ね。バカみたい」
と小さく呟いて、自分のグループの輪へと戻っていった。彼女なりの、静かな見届け方なのだと思う。
「――あ、いた」
不意に後ろから声をかけられ、振り返ると、そこには少し耳を赤くした颯太くんが立っていた。手には、いつものノートが握られている。
「何、ニヤニヤして見てんだよ。……ほら、行くぞ」
「うん!」
いつものぶっきらぼうな口調。けれど、その目は少しだけ誇らしげで、どこかホッとしたように揺れていた。


