図書室の窓から、素直じゃない恋が降ってきた

幸せな時間は、突如として破られた。

「……じゃあ、もう一生離さねぇから。覚悟しろ
よ」

そう言って私を抱きしめる颯太くんの胸の中で、私は彼のトクトクと速い心臓の音を聞いていた。あまのじゃくな彼がやっと見せてくれた、心からの笑顔と温もり。このまま時間が止まればいいのに。本気でそう願った、その瞬間だった。
ガタ、と静かな屋上に不釣り合いな硬い音が響いた。

「っ……!?」

颯太くんが弾かれたように目を見開き、素早く私を自分の背後にかばう。
視線の先――図書室へと繋がっているはずの「プリズムの窓辺」の空間が、水面のようにぐにゃりと歪んでいた。

「誰だ……!」

颯太くんが昼間の彼からは想像もつけないほど、低く鋭い声をあげる。
歪む光の向こうから現れたのは、見覚えのある学校の制服を着た、一人の女の子だった。

「――やっぱり、ここにいた」

現れたのは、2年2組の琉楓ちゃんだった。
昼間、廊下で颯太くんの周りにいつもいる、クラスでも目立つ可愛い女の子グループのリーダーだ。

「琉楓……!? なんでお前がここに……」

颯太くんの声が、明らかな動揺で激しく揺れる。
琉楓ちゃんは、夕焼けと星空が溶け合う幻想的な屋上の景色には目もくれず、ただまっすぐに、私を背中に隠す颯太くんだけを睨みつけていた。その手には、一台のスマートフォンが握られている。

「最近の横山くん、昼休みにいつもスマホ見て変な顔してるから、おかしいなと思ってたんだよね。……『別に寂しいわけじゃないけど、暇なら来れば?』だっけ? 画面、後ろから見えちゃったんだ。だから後を追ってきたの。図書室の奥に、こんな変な場所があるなんて知らなかったけど」

彼女の言葉に、私の心臓が冷たく跳ね上がった。
昼休み、颯太くんが私に送ったあのメッセージを、彼女は見抜いていたのだ。

「相川、だよね? 4組の」

琉楓ちゃんの冷ややかな視線が、颯太くんの肩越しに私を捉える。

「横山くんが学校でどれだけ頑張ってるか、あんた何も知らないでしょ。みんなの理想でいなきゃいけない彼を、こんなところに連れ込んで、何その満足そうな顔。あんたが横山くんを壊してるんじゃないの?」

「違う! 輝は関係ねぇ!」

颯太くんが遮るように怒鳴った。
琉楓ちゃんに向かって一歩踏み出し、私の存在を完全に隠すように立ちはだかる。その背中は、怒りと、そして「完璧な自分」が壊される恐怖で、痛々しいほどに強張っていた。

「頼むから、輝には手を出すな。……頼む、琉楓」

学校の王子様が、一人の女子生徒に向かってプライドを捨て、必死に頭を下げている。
私のために必死になってくれる彼の姿に胸が締め付けられると同時に、二人の秘密だった放課後が、ついに現実の世界へと引きずり出されようとしていた。