記憶
精神病院のデイケアは普通は午前の部と午後の部があり通院の人達が通う。そして家に帰っても夕ご飯が食べれないとかグループホームに住んでる人達には、ナイトケアなるものが存在する。ナイトケアの今日のプログラムは買い物訓練である。病院から送迎バスに乗り込み近くのスーパーで買い物するのだ。
「買い物行かないのですか」由美は一人でいる龍太郎に声を掛けた。
「昨日、グループホームで買い物したから」デイケア室には数人の買い物に行かない人達がソファでくつろいでいる。由美達は、利用者さんと仲良くなるチャンスと職員に教えられ部屋を伺っている。由美は誰に話しかけたらいいものか迷っているとそこへ前座でカラオケを披露した今田君がやって来た。
「トランプやろうよ」数人が集まって来た。トランプをやりながら殆どの利用者さんはあまり喋ろうとはしない。でも一般の社会とさほどの違和感は感じない由美である。そこへ初老の男性がやって来て由美達3人の間に入り語りだした。
「みんな居場所がないんだよ。働きたくても雇ってくれる仕事はない。家に帰れば誰も話し相手がいずにひとりぼっち。寂しくて。デイケアでは笑っていてもねえ」すると初老の女性が「そんなこと。話なすな」と叱った。その光景を見ていた相馬龍太郎は冴えない表情をいっそう冴えない顔になり。頭に社会的入院の4文字が浮かんだ。
由美は朝から気になる男女がいた。この日いつも一緒にいるみたいなのだ。自分から近付いて行った。
「こんにちは」するとすぐ返事が返ってきた。
「夫婦ですか」
「嫌、友達。もう15年間一緒にいる。不思議な関係」
どうみたって、カップルみたいに見える由美であった。今日は一日何事もなく終わろうとしている。ただひとつ気になる川口先輩。実習生達は17時になり病院を後にする。夕食の時間は18時からである。それまで自由時間。そこへ職員のひとりが龍太郎の所へやって来た。
「相馬さん。あしたから実習生。田中由美さんに研修が終わるまで色々。自分の人生経験等を彼女に語って下さい。お願いします」龍太郎は一つ返事で引き受けた。
毎日。デイケアに通ってボーっと過ごし。ご飯を食べホームに帰る。病院に入院してる時と変わらない。ただ一つ変わってる日常は就寝前にこっそり飲む一杯のビールであった。グループホームの職員も見て見ぬふりしてくれる。社会的入院40年の重みである。
朝からグループホームのロビーが慌ただしい。朝早く起きてきた連中はテレビにかじりついていた。今朝のニュースである。精神疾患のある息子を25年間も檻の中に監禁してたらしい。龍太郎の胸の内は檻の中も精神科も変わりゃしない。発病した時は、自分の意志で退院する事は不可能であった。長い間。3畳程の部屋に便器が1つあるだけの部屋。隔離室に身体拘束されていた。檻の中から出てくるのは。朝、昼、夕、就寝前の煙草を吸う、4度だけである。隔離室から閉鎖病棟に移ったときは。この時代はお茶も自由に飲めないし。ましてや大好物だった珈琲は厳禁であった。身寄りのない龍太郎は差し入れもない。おやつの時間にはじっと周りのみんなが美味しそうに食べてる姿を見てるだけ。外出も外泊も出来ない状態。やっと病院の外へ外出できたのは24歳の入院して3年目の出来事だった。龍太郎の唯一の楽しみは読書だった。院内図書館にある本は全て読破した。作家を夢見ていたが入院してから執筆に触れる事は1度もなかった。精神病院にいた40年間は龍太郎にとって全てが空しく、無意味で、苦々しい時間である。失われた40年間は戻ってこない。過去の妄想に酔いしれていると職員の後藤真美ケースワーカーがやって来た。
「来週。アパート探しに行きましょうね」
田中由美の家で一番最初に目を覚まして起きてくるのは同居しているお婆ちゃんと言ってもまだ60になる年齢である。しかしこの日はお婆ちゃんよりも早く起きてきた由美であった。
「研修はいかがなものかい」由美は昨日の一日をお婆ちゃんに話して聞かせた。
「社会的入院50年の人がいるのかい」お婆ちゃんはびっくりしていたが。お婆ちゃんの脳裏に40年前の出来事が浮かんで来た。あの日。一夜を共にした男の間に出来たのが由美のお母さんであった。あの人は翌日から消息不明になり。あらゆる場所を探したが手掛かりを得る事はなく40年が過ぎた。
「婆ちゃんどうしたの涙ながして」
「嫌、ごめんよ」
「爺ちゃんの事を考えていた」
「爺ちゃんはガンで亡くなったんだよね」お婆ちゃんは
「そうだねと」と返した。その後爺ちゃんの話題に触れる事はなかった。
二日目、三日目とカレンダーはめくれるが精神科のデイケアに来てみた3人はお互い。精神病院ってこんなのって感じを浮かべていた。龍太郎は3日間風邪をこじらせてデイケアを休んでいる。1週間が過ぎ龍太郎はこの日久しぶりにデイケアにやって来た。今日は三井グリーンランドへの日帰り旅行である。むろん田中由美も同行する事になる。由美に色々人生経験を語ってくれと頼まれた龍太郎はどう由美と接したらいいか、何を喋ればいいか苦悩している。職員の配慮で行きと帰りの車中に龍太郎の助手席に由美を座らせる。
龍太郎はデイケアにやって来るといつも冴えない表情でボーっとして一日を過ごしている。由美は龍太郎に話しかけてきた。
「今日はいつもと服装が違いますね」その時、由美の手が龍太郎の手に触れた。その時。龍太郎の身体は震えた。得体の知れない衝動に満ちた感覚である。額からは汗が「ドドッと流れ落ちてくる。由美は龍太郎にハンカチで流れ出る汗を拭いた。そのハンカチは女性らしい可愛い模様のハンカチである。龍太郎はそのハンカチのぬくもりが、一日中身体に余韻が残っている状態であった。
三井グリーンランドに着くと、由美は龍太郎の手を握りジェットコースターへと向かった。還暦が近い龍太郎を捕まえて。由美は突然単独行動をやったのである。あまりに冴えない表情になんとかしないとという由美の思惑である。由美は行動力があり活発な性格である。龍太郎は。「それはいいよ」と抵抗したが、由美は切符を買い。ジェットコースターに二人で飛び乗った。反逆行動である。龍太郎は座席に着くと。昭和の第2次世界大戦の日本の特効隊に似た心境に陥った。その時。昔。片桐康子と一緒に行った。富士山の麓にある富士急ハイランドでの記憶が浮かんできた。この日が2度目のジェットコースターである。片桐康子は抵抗する龍太郎の手を握り強引にジェットコースターに飛び乗った。そして降りた瞬間に言いようのない、衝動感に身体全体。足からつま先までまるで神経がマヒしたような感覚に全身が覆われた。そして、コースターが頂上に向かって動き出した。龍太郎は目を力いっぱいにつむった。そして、上下左右に身体が動かされ、今にも座席から飛んでいきそうな感覚。コースターはあの頃とは全然恐怖感が違う。さらに威力が増している。そしてジェットコースターを降りた瞬間に龍太郎は恋に堕ちた。身体が「カッカと燃えてくる。そして心臓に血管が揺れてくる。やがて還暦を迎える龍太郎であった。
帰りのバスはみんな疲れたのかぐっすり眠っている。このバスには主任の中林看護師と由美は同じ席である。
「田中さん、30分程何処へ行ってたの」
「相馬さんが具合が悪いと言ったので、ちょっと休ませていました」中林看護師はそれ以上問い詰めようとはしなかった。由美が龍太郎を見ると大きないびきをかいて熟睡している。由美もだんだん深い眠りに入っていった。龍太郎の夢の中には、愛した片桐康子が登場していた。
昭和53年。九州から早稲田大学文学部への進学で東京へ上京してきた。上京する3か月前に両親は交通事故で他界した。大学への進学をあきらめようとしたが、当時新聞配達をしていた龍太郎は奨学金のある新聞奨学生があると聞き住み込みで働く決意をあらわにして決めた。
毎朝新聞販売店は東京都板橋区滝野川にあった。夜行列車で東京駅に着いたのはお昼の12時である。龍太郎はお腹が減った。腹の虫がグーグーと泣いている。山手線に乗り池袋駅に着き。ホームへ降り立つと。西武デパートと東武デパートがホームを挟んで位置している。龍太郎は迷わず何故か西武デパートに足が向いた。7階に上がり腹の虫が泣くのを我慢できない。真っ先に入ったのは、とんかつ屋であった。昼時という事もあり店内は満杯である。外で様子を伺っていると店員さんが寄って来た。
「学生さん。相席でいいですか」
「ええ」
店員が差した席には若い女性が座っていた。龍太郎の鼓動がゴクゴクと唸る振動が頭に響いてくる。
すると女性は軽く挨拶を交わした。龍太郎はドギマギ。何か喋らないといけないと。頭では考えるものの口に出てこない。すると、
「タバコ吸うの」
「いや」女性は言葉を続けた。
「イギリスに行って来た帰りなの。これ、イギリスのタバコ。受け取ってプレゼントするわ」龍太郎は震える手で受け取った。龍太郎はポケットから太宰府のキーホルダーを出して。女性に渡した。
「これ、受け取って下さい」
龍太郎は早稲田大学の受験に受かるように福岡県の太宰府に家族と言って買ってきたものであった。龍太郎は両親の形見として大事にしていた。
「俺。相馬龍太郎」
「私は片桐康子」二人は赤い糸で結ばれていたのかもしれない出逢いであった。
「これから、富士急ハイランドに行きません」
「ハイ」龍太郎はお昼の15時に販売店到着と毎朝新聞の店長にハガキを出したのを忘れていた。二人は片桐康子の運転する車で翌日静岡県にある富士急ハイランドに到着した。そして。ジェットコースターに乗り込んだのである。帰りは夜の横浜にある山下公園に立ち寄った。そしてホテルで一夜を共にした。朝、片桐康子が目を覚ますと相馬龍太郎はいなかった。
龍太郎は夜の東京をさまよい続けた。龍太郎は感情のコントロールが頂点に達して、精神に異常をきたしたのだ。そして、山手線の品川駅でホームから電車に飛び込んだ。大勢の鉄道警察官がやって来て、かろうじて龍太郎の身体に接触する手前で電車は急ブレーキをかけて停止したために命に別状はなかった。しかし、龍太郎は身分を証明するものは何一つなかった。精神病院に担ぎ込まれて医療保護入院となる。それから、40年間。シャバで生活する事はなかった。
精神病院のデイケアは普通は午前の部と午後の部があり通院の人達が通う。そして家に帰っても夕ご飯が食べれないとかグループホームに住んでる人達には、ナイトケアなるものが存在する。ナイトケアの今日のプログラムは買い物訓練である。病院から送迎バスに乗り込み近くのスーパーで買い物するのだ。
「買い物行かないのですか」由美は一人でいる龍太郎に声を掛けた。
「昨日、グループホームで買い物したから」デイケア室には数人の買い物に行かない人達がソファでくつろいでいる。由美達は、利用者さんと仲良くなるチャンスと職員に教えられ部屋を伺っている。由美は誰に話しかけたらいいものか迷っているとそこへ前座でカラオケを披露した今田君がやって来た。
「トランプやろうよ」数人が集まって来た。トランプをやりながら殆どの利用者さんはあまり喋ろうとはしない。でも一般の社会とさほどの違和感は感じない由美である。そこへ初老の男性がやって来て由美達3人の間に入り語りだした。
「みんな居場所がないんだよ。働きたくても雇ってくれる仕事はない。家に帰れば誰も話し相手がいずにひとりぼっち。寂しくて。デイケアでは笑っていてもねえ」すると初老の女性が「そんなこと。話なすな」と叱った。その光景を見ていた相馬龍太郎は冴えない表情をいっそう冴えない顔になり。頭に社会的入院の4文字が浮かんだ。
由美は朝から気になる男女がいた。この日いつも一緒にいるみたいなのだ。自分から近付いて行った。
「こんにちは」するとすぐ返事が返ってきた。
「夫婦ですか」
「嫌、友達。もう15年間一緒にいる。不思議な関係」
どうみたって、カップルみたいに見える由美であった。今日は一日何事もなく終わろうとしている。ただひとつ気になる川口先輩。実習生達は17時になり病院を後にする。夕食の時間は18時からである。それまで自由時間。そこへ職員のひとりが龍太郎の所へやって来た。
「相馬さん。あしたから実習生。田中由美さんに研修が終わるまで色々。自分の人生経験等を彼女に語って下さい。お願いします」龍太郎は一つ返事で引き受けた。
毎日。デイケアに通ってボーっと過ごし。ご飯を食べホームに帰る。病院に入院してる時と変わらない。ただ一つ変わってる日常は就寝前にこっそり飲む一杯のビールであった。グループホームの職員も見て見ぬふりしてくれる。社会的入院40年の重みである。
朝からグループホームのロビーが慌ただしい。朝早く起きてきた連中はテレビにかじりついていた。今朝のニュースである。精神疾患のある息子を25年間も檻の中に監禁してたらしい。龍太郎の胸の内は檻の中も精神科も変わりゃしない。発病した時は、自分の意志で退院する事は不可能であった。長い間。3畳程の部屋に便器が1つあるだけの部屋。隔離室に身体拘束されていた。檻の中から出てくるのは。朝、昼、夕、就寝前の煙草を吸う、4度だけである。隔離室から閉鎖病棟に移ったときは。この時代はお茶も自由に飲めないし。ましてや大好物だった珈琲は厳禁であった。身寄りのない龍太郎は差し入れもない。おやつの時間にはじっと周りのみんなが美味しそうに食べてる姿を見てるだけ。外出も外泊も出来ない状態。やっと病院の外へ外出できたのは24歳の入院して3年目の出来事だった。龍太郎の唯一の楽しみは読書だった。院内図書館にある本は全て読破した。作家を夢見ていたが入院してから執筆に触れる事は1度もなかった。精神病院にいた40年間は龍太郎にとって全てが空しく、無意味で、苦々しい時間である。失われた40年間は戻ってこない。過去の妄想に酔いしれていると職員の後藤真美ケースワーカーがやって来た。
「来週。アパート探しに行きましょうね」
田中由美の家で一番最初に目を覚まして起きてくるのは同居しているお婆ちゃんと言ってもまだ60になる年齢である。しかしこの日はお婆ちゃんよりも早く起きてきた由美であった。
「研修はいかがなものかい」由美は昨日の一日をお婆ちゃんに話して聞かせた。
「社会的入院50年の人がいるのかい」お婆ちゃんはびっくりしていたが。お婆ちゃんの脳裏に40年前の出来事が浮かんで来た。あの日。一夜を共にした男の間に出来たのが由美のお母さんであった。あの人は翌日から消息不明になり。あらゆる場所を探したが手掛かりを得る事はなく40年が過ぎた。
「婆ちゃんどうしたの涙ながして」
「嫌、ごめんよ」
「爺ちゃんの事を考えていた」
「爺ちゃんはガンで亡くなったんだよね」お婆ちゃんは
「そうだねと」と返した。その後爺ちゃんの話題に触れる事はなかった。
二日目、三日目とカレンダーはめくれるが精神科のデイケアに来てみた3人はお互い。精神病院ってこんなのって感じを浮かべていた。龍太郎は3日間風邪をこじらせてデイケアを休んでいる。1週間が過ぎ龍太郎はこの日久しぶりにデイケアにやって来た。今日は三井グリーンランドへの日帰り旅行である。むろん田中由美も同行する事になる。由美に色々人生経験を語ってくれと頼まれた龍太郎はどう由美と接したらいいか、何を喋ればいいか苦悩している。職員の配慮で行きと帰りの車中に龍太郎の助手席に由美を座らせる。
龍太郎はデイケアにやって来るといつも冴えない表情でボーっとして一日を過ごしている。由美は龍太郎に話しかけてきた。
「今日はいつもと服装が違いますね」その時、由美の手が龍太郎の手に触れた。その時。龍太郎の身体は震えた。得体の知れない衝動に満ちた感覚である。額からは汗が「ドドッと流れ落ちてくる。由美は龍太郎にハンカチで流れ出る汗を拭いた。そのハンカチは女性らしい可愛い模様のハンカチである。龍太郎はそのハンカチのぬくもりが、一日中身体に余韻が残っている状態であった。
三井グリーンランドに着くと、由美は龍太郎の手を握りジェットコースターへと向かった。還暦が近い龍太郎を捕まえて。由美は突然単独行動をやったのである。あまりに冴えない表情になんとかしないとという由美の思惑である。由美は行動力があり活発な性格である。龍太郎は。「それはいいよ」と抵抗したが、由美は切符を買い。ジェットコースターに二人で飛び乗った。反逆行動である。龍太郎は座席に着くと。昭和の第2次世界大戦の日本の特効隊に似た心境に陥った。その時。昔。片桐康子と一緒に行った。富士山の麓にある富士急ハイランドでの記憶が浮かんできた。この日が2度目のジェットコースターである。片桐康子は抵抗する龍太郎の手を握り強引にジェットコースターに飛び乗った。そして降りた瞬間に言いようのない、衝動感に身体全体。足からつま先までまるで神経がマヒしたような感覚に全身が覆われた。そして、コースターが頂上に向かって動き出した。龍太郎は目を力いっぱいにつむった。そして、上下左右に身体が動かされ、今にも座席から飛んでいきそうな感覚。コースターはあの頃とは全然恐怖感が違う。さらに威力が増している。そしてジェットコースターを降りた瞬間に龍太郎は恋に堕ちた。身体が「カッカと燃えてくる。そして心臓に血管が揺れてくる。やがて還暦を迎える龍太郎であった。
帰りのバスはみんな疲れたのかぐっすり眠っている。このバスには主任の中林看護師と由美は同じ席である。
「田中さん、30分程何処へ行ってたの」
「相馬さんが具合が悪いと言ったので、ちょっと休ませていました」中林看護師はそれ以上問い詰めようとはしなかった。由美が龍太郎を見ると大きないびきをかいて熟睡している。由美もだんだん深い眠りに入っていった。龍太郎の夢の中には、愛した片桐康子が登場していた。
昭和53年。九州から早稲田大学文学部への進学で東京へ上京してきた。上京する3か月前に両親は交通事故で他界した。大学への進学をあきらめようとしたが、当時新聞配達をしていた龍太郎は奨学金のある新聞奨学生があると聞き住み込みで働く決意をあらわにして決めた。
毎朝新聞販売店は東京都板橋区滝野川にあった。夜行列車で東京駅に着いたのはお昼の12時である。龍太郎はお腹が減った。腹の虫がグーグーと泣いている。山手線に乗り池袋駅に着き。ホームへ降り立つと。西武デパートと東武デパートがホームを挟んで位置している。龍太郎は迷わず何故か西武デパートに足が向いた。7階に上がり腹の虫が泣くのを我慢できない。真っ先に入ったのは、とんかつ屋であった。昼時という事もあり店内は満杯である。外で様子を伺っていると店員さんが寄って来た。
「学生さん。相席でいいですか」
「ええ」
店員が差した席には若い女性が座っていた。龍太郎の鼓動がゴクゴクと唸る振動が頭に響いてくる。
すると女性は軽く挨拶を交わした。龍太郎はドギマギ。何か喋らないといけないと。頭では考えるものの口に出てこない。すると、
「タバコ吸うの」
「いや」女性は言葉を続けた。
「イギリスに行って来た帰りなの。これ、イギリスのタバコ。受け取ってプレゼントするわ」龍太郎は震える手で受け取った。龍太郎はポケットから太宰府のキーホルダーを出して。女性に渡した。
「これ、受け取って下さい」
龍太郎は早稲田大学の受験に受かるように福岡県の太宰府に家族と言って買ってきたものであった。龍太郎は両親の形見として大事にしていた。
「俺。相馬龍太郎」
「私は片桐康子」二人は赤い糸で結ばれていたのかもしれない出逢いであった。
「これから、富士急ハイランドに行きません」
「ハイ」龍太郎はお昼の15時に販売店到着と毎朝新聞の店長にハガキを出したのを忘れていた。二人は片桐康子の運転する車で翌日静岡県にある富士急ハイランドに到着した。そして。ジェットコースターに乗り込んだのである。帰りは夜の横浜にある山下公園に立ち寄った。そしてホテルで一夜を共にした。朝、片桐康子が目を覚ますと相馬龍太郎はいなかった。
龍太郎は夜の東京をさまよい続けた。龍太郎は感情のコントロールが頂点に達して、精神に異常をきたしたのだ。そして、山手線の品川駅でホームから電車に飛び込んだ。大勢の鉄道警察官がやって来て、かろうじて龍太郎の身体に接触する手前で電車は急ブレーキをかけて停止したために命に別状はなかった。しかし、龍太郎は身分を証明するものは何一つなかった。精神病院に担ぎ込まれて医療保護入院となる。それから、40年間。シャバで生活する事はなかった。



