初恋のアイツは、あざとくてズルい

そんなある日の放課後。あの日と同じように、夕日に染まる教室で、私たちは二人きりで残っていた。今日は日直ではないけれど、なんとなく、二人だけの時間が欲しくて居残りをしていたのだ。窓際の席に座る私の髪を、駆が愛おしそうに指先でくるくると弄んでいる。「ねえ、駆。最近ちょっとやりすぎ。みんなに呆れられてるよ?」「えー、そうかな。俺としては、まだまだ足りないくらいなんだけど」駆は椅子の背もたれに寄りかかり、少し拗ねたように唇を尖らせた。その顔は、やっぱりあの頃のチビでやんちゃだった駆の面影そのもので。「……でも」「ん?」「……嬉しかったよ。駆が、私のためにそんなに変わろうとしてくれたこと。今の駆も、昔の駆も、どっちも大好き」恥ずかしさを堪えて、真っ直ぐにそう伝えると、駆の手がピタッと止まった。みるみるうちに、駆の綺麗な顔が耳の根元まで真っ赤に染まっていく。いつもはあざとく私を翻弄するくせに、私が不意に素直になると、途端に形勢が逆転するのだ。「……ずるいのは、杏の方じゃん」駆は片手で自分の顔を覆いながら、低く掠れた声で呟いた。「そんなこと言われたら、俺、もう我慢できないんだけど」「え……?」覆っていた手が外され、夕日の光を浴びた駆の瞳が、熱を帯びて私を捉える。駆がゆっくりと顔を近づけてくる。今度はからかうような笑みはなく、一人の男の子としての、真剣で、少し切ないような表情。鼓動が速くなる。目を閉じようとしたその瞬間、私の額に、柔らかくて暖かいものがポン、と優しく触れた。「……っ」「あはは、真っ赤。本当は唇にしたかったけど、それは、俺がもっとカッコいい大人になって、本当に杏を迎えに行く時まで取っておく」駆はそう言って、ふにゃりと眉を下げて幸せそうに笑った。おでこを抑えてフリーズする私を見て、本当に楽しそうだ。やっぱり、このアイツはあざとくて、ズルくて、私の心臓をいくらあっても足りなくさせる、世界で一番大好きな初恋の相手。オレンジ色から藍色へと移り変わる空の下、私たちの恋は、夕日の輝きよりもずっと眩しく、これからも続いていく。