初恋のアイツは、あざとくてズルい

「あはは、確かに。じゃあ、仕切り直しね」駆は私の右手を握ったまま、少しだけ真面目な顔を作って、だけど隠しきれない照れくささで目元を緩ませた。「俺が大人になったら、本当に杏をお嫁さんに貰いに行くから。……今度は鼻水垂らしてないし、ダサい泥んこでもない。ちゃんと、杏に釣り合うカッコいい男になって、迎えに行く」「……うん。楽しみにしてる」今度はからかったりせず、真っ直ぐに駆の目を見て頷いた。すると駆は一瞬だけ驚いたように目を見開いた後、私の素直な返答が嬉しかったのか、ふにゃりと眉を下げて本当に幸せそうに笑った。その顔は、少女漫画のイケメンでも何でもない、私の大好きな幼馴染の笑顔そのものだった。「よし! じゃあ約束。……っと、それより先に、これを職員室に届けなきゃ」駆は私の手元にあったプリントの束を「俺が持つよ」と言って、ひょいと自分の片手に引き受けた。ガラガラと教室のドアを開けて、静まり返った夕暮れの廊下に出る。長い廊下には、私たちの等身大の影が並んで伸びていた。「ねえ、駆。明日から学校、どうするの?」「どうするって?」「だって、駆は女子にすごく人気だし……明日から私たちが一緒にいたら、絶対にみんなびっくりするよ」つい数時間前まで悩んでいた不安を口にすると、駆はプリントを抱えたまま、悪戯っぽくニカッと笑った。「いいじゃん、びっくりさせれば。俺、明日からは朝の登校も、昼休みの購買も、放課後も、全部杏の隣をキープするつもりだから。周りのやつらに『杏は俺のもの』って見せつけてやるんだ」「なっ……! ちょっと、声が大きい!」慌てて周囲を見回す私を見て、駆は楽しそうに声を上げて笑う。やっぱりこのアイツは、見た目がどんなに完璧になっても、中身は猪突猛進で、あざとくて、最高にズルい私の初恋の相手だ。でも、もう置いていかれたような寂しさはどこにもなかった。どんなに眩しく変わっても、駆の真ん中にある真っ直ぐな光は、あの頃から一歩もブレずに私だけを照らし続けてくれている。職員室へ向かう廊下、今度はどちらからともなく、自然と小指と小指が絡み合う。オレンジ色から深い藍色へと変わり始めた空の下、私たちの新しくて、どこか懐かしい恋の物語が、ここから鮮やかに始まっていく。