初恋のアイツは、あざとくてズルい

「俺さ、杏に会いたくて、必死で勉強してこの高校に編入試験受けて入ったんだよ」「え……? 編入って、そんなに簡単じゃないんじゃ……」「簡単じゃなかったよ。でも、どうしても杏のいる街に戻りたかったから。小学校のとき、駅のホームで約束したじゃん。『ずっと好き』って。俺、あの約束、離れてた何年間も、1日も忘れたことないから」見つめ合う中、駆の耳が、真っ白なシャツの襟元の上で真っ赤に染まっているのが見えた。どんなにあざとい仕草ができるようになっても、根っこはあの頃の、不器用で真っ直ぐな駆のままだった。「見た目が変わったって言うけど……それ、杏に『カッコよくなったな』って思われたくて、ダサい自分を変えたくて、髪型とか服とかめっちゃ研究したんだよ。全部、杏のため。俺の初恋は、あの時から今までずっと続いてるんだけど」夕日に照らされた駆の顔は、今までで一番カッコよくて、そして愛おしかった。私の心臓の音は、もう静かな教室中に響いてしまうんじゃないかと思うくらい、トクトクと大きく鳴り狂っている。「……バカ駆。そんなの、私だって……ずっと忘れてなかったよ。ずっと、駆のことが好きだったんだから」俯きながら、消え入りそうな声で小さく答えると、握られた手に、さらにぎゅっと愛おしそうな力がこもった。駆が椅子から立ち上がり、私たちの距離は完全にゼロになる。「本当に? ……じゃあさ、俺のお婿さんになるって約束、まだ有効?」駆が、少し照れくさそうに、でも最高に幸せそうに笑う。「……それは、男の子の駆が言うセリフでしょ!」お互いの赤い顔を見て、どちらからともなく、破顔して笑い合う。昔と同じ、だけど少しだけ新しくて、とびきり特別な恋の始まり。オレンジ色の優しい光に包まれた教室の中、私たちの影は、一つの大きな影になって床に伸びていた。