初恋のアイツは、あざとくてズルい

「……な、何によ。昔は私のほうが頭一つ分背が高かったくせに。生意気」「あはは、そうだっけ? じゃあ、これからは杏が俺のこと、たくさん見上げてよ」そう言って、駆は私の顔を覗き込むように、少しだけ屈んで顔を近づけて笑った。至近距離。ふわりと香る、石鹸のようなシトラスの香りに、頭がクラクラする。(な、何よその『あざとい』仕草は! どこでそんなの覚えてきたのよ……!)それからの学校生活は、私にとって心臓に悪い日々の連続だった。駆はその端正な容姿と人当たりの良さから、クラスだけでなく学年でも一躍人気者になった。それなのに、休み時間になると周りの男子たちの誘いを断って、必ず私の席にやってきては、昔みたいに親しげに話しかけてくるのだ。「杏、今日の購買の限定パン、半分こしよ」「杏、この数学のノート見せて。ここが全然わかんなくてさ」「杏、放課後一緒に帰ろ。駅前のクレープ屋、新しくなったんだって」周りの女子からの「え、転校生と杏さんってどういう関係……?」という、詮索と羨望が混ざった視線がチクチクと痛い。私は嬉しさと恥ずかしさ、そしてどこか置いていかれたような寂しさの板挟みになり、つい駆に素直になれず、ぶっきらぼうな態度を取ってしまう日々が続いた。話しかけられても短く返したり、わざと目を合わせずに別の友達のところへ行ったり。我ながら子供っぽいとは思うけれど、今の輝いている駆の隣にいるのが、どうしても気恥ずかしかった。