初恋のアイツは、あざとくてズルい

「お、俺の名前呼んだ? もしかして……杏(あん)?」背後からかけられた、少し低くて、だけど耳に心地よく響く声。振り返った私は、文字通りフリーズした。そこに立っていたのは、すらりと背が高く、ブレザーをさらりと着こなした、恐ろしく顔の整った男子高校生だった。サラサラの茶髪に、涼しげで切れ味のある目元。女子たちが朝から遠巻きに「え、あのイケメン転校生、誰?」とザワついている、まさにその張本人だった。「……え、駆!? うそ、なんでそんなに大きくなって……っていうか、本当に駆なの!?」「ひどいな、本当にって。駆だよ。ちょっと背が伸びて、カッコよくなっただけでしょ?」駆は悪戯っぽくニカッと笑う。その笑ったときの犬っぽい口元だけは、確かに昔の面影を色濃く残していた。けれど、あまりの変貌ぶりに私の心臓は朝から警報を鳴らしっぱなしだった。何を隠そう、私の初恋の相手は、小学校時代の駆だった。当時は毎日泥だらけで、「将来は杏のお婿さんになってやる!」なんて鼻水を拭いながら言っていたアイツ。引っ越しの日に駅のホームでワンワン泣いて、お互いに「ずっと好きだからね!」「離れても忘れないから!」と約束した、淡くて甘い思い出。……なのに、数年ぶりに目の前に現れたのは、少女漫画から飛び出してきたような完璧なイケメンだ。胸がキュンとするのを通り越して、気まずさと恥ずかしさで爆発しそうだった。