魔法より、君に恋をする。

そのまま生徒会室へ向かう。

 今日はルシアンから呼ばれていた。

 黒い石について、新しく分かったことがあるらしい。

「遅かったね」

 扉を開けると、ルシアンが書類から顔を上げた。

「迷いました」

「堂々と言うようになったね」

「クロフォード先輩に拾われました」

「拾った覚えはない」

「猫みたいだね」

「会長」

「何?」

「余計なことを言うな」

 リリアは首を傾げる。

「猫いましたよ」

「……」

「へえ」

 ルシアンが楽しそうに笑う。

「まだいたんだ」

「知ってるんですか?」

「カイルがこっそり餌を――」

「会長」

「怖いなあ」

「本当にあげてた」

「たまにだ」

「優しい」

「その話は終わりだ」

 リリアは笑いながら椅子へ座った。

 少し前まで、この二人と同じ部屋にいると緊張していた。

 何かを隠されている。

 自分だけが知らない。

 そんな感覚が強かったからだ。

 もちろん今も、二人が何かを隠していることは変わらない。

 けれど。

 それだけではなくなった。

 カイルは猫に餌をあげる。

 笑うと少し幼く見える。

 言葉は少ないけれど、歩く速度を合わせてくれる。

 そういうことを、自分は今日知った。

「リリア?」

「何ですか?」

「ぼーっとしてたから」

「クロフォード先輩のこと考えてました」

 沈黙。

 カイルが固まる。

 ルシアンが眼鏡の奥で目を細めた。

「へえ」

「何ですか?」

「いや。僕の前で随分大胆だなと思って」

「何が?」

「会長、やめろ」

「はいはい」

 ルシアンは書類を一枚、机の中央へ置いた。

「本題に入ろう」

 紙には、黒い石の簡略図が描かれていた。

 そこから伸びる十二本の細い線。

「前に見せた石を解析した。あれ自体には、今のところ攻撃性はない」

「じゃあ安全?」

「そこまでは言えない。ただ、少なくとも触れただけで発動するようなものではなさそうだ」

「何に反応するんですか?」

「魔力」

「誰の?」

 ルシアンは一度黙った。

「君の」

 リリアは紙を見る。

「私だけ?」

「今確認できている範囲では」

「なんで?」

「それを調べてる」

「本当に分からない?」

「分かっていることと、推測していることがある」

 以前なら、ここで「まだ言えない」と終わっていただろう。

 けれどルシアンは続けた。

「推測を事実みたいに君へ伝えたくない。だから、確認できたところから話す」

 リリアは少し驚いた。

「……ちゃんと説明してくれるようになった」

「誰かさんに怒られたからね」

「私?」

「他に誰がいるの」

 カイルが隣で小さく息を吐く。

「俺も同じだ」

「何が?」

「前なら、お前を調査から外していた」

 リリアはカイルを見る。

「今は?」

「条件付きで参加を認める」

「条件多そう」

「一人で行動しない。石に直接触れない。異変があったらすぐ離れる。勝手に魔力を流さない」

「四つ」

「少ない方だ」

「本当は?」

「十二個考えた」

「多い」

 ルシアンが笑った。

「かなり減らしたんだよ、彼なりに」

 リリアは少し考えてから頷いた。

「分かりました」

 カイルが意外そうな顔をする。

「全部守るのか?」

「守りますよ」

「……そうか」

「何ですか、その顔」

「いや」

 カイルは少しだけ視線を逸らした。

「信用していいのかと思っただけだ」

「してなかった?」

「している」

「じゃあ何?」

「お前が、自分から条件を受け入れるとは思わなかった」

「私だって危ないことしたいわけじゃないです」

「知ってる」

「なら信用して」

 カイルがこちらを見る。

 少しの沈黙のあと、頷いた。

「ああ」

 それだけだった。

 けれどリリアには、なぜかその一言が嬉しかった。