魔法より、君に恋をする。

一人になったカイルは、その場にしばらく立っていた。

 自分の右手を見る。

 彼女が握っていた手。

『私はここにいます』

 分かっている。

 目の前にいる少女は生きている。

 笑う。

 怒る。

 迷子になる。

 甘いものを食べる。

 自分に遠慮なく文句を言う。

 過去の誰かではない。

 今ここにいる、十五歳の少女だ。

 それなのに、赤い月を見るたび。

 あの日の感触が蘇る。

 自分の手。

 刃。

 彼女の胸。

 温かかった血。

 最後まで、自分を責めなかった声。

「……」

 目を閉じる。

『私が先輩を守るのは駄目?』

 昔の自分なら、拒絶していた。

 彼女を戦場から遠ざけることだけを考えただろう。

 危険なものを隠し、何も知らせず、自分一人で終わらせようとした。

 それが守ることだと思っていた。

 けれど。

『一緒にいればいい』

 あまりにも簡単に言われた。

 簡単なはずがない。

 それでも、その言葉を信じたいと思ってしまった。

「……少しだけ、か」

 自分で言った言葉に苦笑する。

 本当は。

 もう少しだけではなかった。

 彼女が隣にいる未来を想像してしまった時点で、自分は随分欲深くなっている。

 今度こそ、とは言わない。

 まだ言えない。

 過去を理由に彼女を縛りたくはなかった。

 ただ。

 明日も会えるのなら。

 明日も彼女が自分の名前を呼ぶのなら。

 その隣に立つことくらいは、許してもらってもいいのかもしれない。

「また明日、リリア」

 誰もいない道で、もう一度だけ名前を呼んだ。