魔法より、君に恋をする。

翌日の放課後、王立高等魔法学院《アルカディア》は普段とは少し違った賑わいを見せていた。

 体験入部期間の初日ということもあり、校舎の至るところで上級生たちが新入生を呼び止めている。廊下には色鮮やかな勧誘用の掲示が並び、中庭では音楽系の部活動が即興の演奏を披露し、少し離れた訓練場からは剣と剣がぶつかり合う鋭い音が響いていた。

「で、なんで私まで?」

「一人で教室に残しておくと、お前が帰り道で遭難するから」

「学院内で遭難はしない」

「昨日、西棟で途方に暮れてた奴が言うな」

 セシルの返答に、リリアは何も言えなくなった。

 二人が向かっているのは、学院東側にある第二訓練場。今日は剣術部の体験会が開かれているらしく、セシルは昨日から上級生に参加を頼まれていた。

 リリア自身は剣術部に入るつもりなどない。それでもセシルが剣を振るところには少し興味があったし、教室で一人待っているよりは面白そうだと思ってついてきた。

「そういえば、セシルって剣が強いんだよね」

「まあ、それなりには」

「一年で一番?」

「入学したばかりなのに、そんなの分からないだろ」

「でも剣術大会で有名なんでしょ?」

「……誰から聞いた?」

「昨日も女の子たちが話してた」

「お前、妙なところだけ聞いてるな」

 セシルは面倒そうに息を吐いたが、否定はしなかった。

 アルヴェイン公爵家は、代々王国騎士団へ優秀な騎士を送り出してきた名門だ。その家に生まれたセシルも幼い頃から剣を学び、十四歳の時には年齢制限のない地方大会で上位に入ったという。

 本人にとってはわざわざ話すほどのことでもないらしい。

「楽しみ」

「何が?」

「セシルが戦ってるところ」

 何気なく言っただけだった。

 ところが隣を歩いていたセシルが一瞬黙ったので、リリアは不思議に思って顔を上げる。

「どうしたの?」

「……別に」

「?」

「そんな真っ直ぐ期待されると、ちょっとやりにくいだけ」

「じゃあ見ない方がいい?」

「それは嫌だ」

 即答だった。

 今度はリリアが瞬きをする。

 セシルは自分でも反射的に答えたことに気づいたらしく、わずかに気まずそうな顔をした。

「……せっかく来たんだから、見ていけって意味」

「うん。見る」

「そうしてくれ」

 なぜかセシルの歩く速度が少しだけ速くなった。