魔法より、君に恋をする。

 月。

 赤い月。

 焼けた匂い。

 崩れた街。

 誰かの腕。

 黒い髪。

 頬に触れる手。

『――ごめん』

 声。

 知っている。

 知らない。

『俺が――』

 胸が痛い。

 冷たい何かが身体へ入る。

 なのに。

 怖くない。

 どうして。

 目の前の人が泣いているから。

 泣かないで。

 言わなければ。

 私が頼んだ。

 あなたは悪くない。

 そう言いたいのに。

 声が――

「リリア!」

 身体が強く引かれた。

 視界が戻る。

 気づけば、カイルの胸に抱き込まれていた。

「……クロフォード先輩?」

「見るな」

 声が震えている。

 リリアの後頭部を押さえ、自分の胸元へ隠すようにしている。

「先輩」

「見るな」

「もう見えてません」

「……」

 心臓の音が聞こえる。

 速い。

 カイルのものだ。

「大丈夫です」

「大丈夫じゃない」

「私は怪我してない」

「そういう話じゃない」

 腕に力が入る。

 以前と同じだった。

 あの時も、赤い月を見た瞬間、カイルはこうして自分を抱きしめた。

 けれど今日は。

「クロフォード先輩」

「何だ」

「震えてる」

 腕が止まる。

「俺はいい」

「良くないです」

「リリア」

「座りましょう」

「俺は――」

「座って」

 少し強く言う。

 カイルは黙った。

「……分かった」

 今度は従った。