魔法より、君に恋をする。

 地下資料室。

 以前より厳重な結界が張られていた。

 部屋の中央には、透明な箱が置かれている。

 その中に、黒い石があった。

 小さい。

 掌に収まるほど。

 表面には細い銀色の線が走っている。

 リリアは数える。

 一。

 二。

 三。

 十二。

「やっぱり」

 古い本に描かれていた魔法式と似ている。

「近づくな」

 カイルの声が飛ぶ。

「まだ動いてません」

「視線だけで寄りそうだから言ってる」

「そんな能力ないです」

「君ならそのうち身につけそうで怖いね」

 ルシアンが横から言う。

「褒めてます?」

「今回は褒めてない」

 リリアは石を見る。

「これ、どこから来たんですか?」

「北棟の壁の中」

 ルシアンが答える。

「壁?」

「正確には、古い魔法回路の中心部だ。学院が建てられた時からあった可能性が高い」

「学院って何年前?」

「三百年以上前」

 その数字を聞いた瞬間、昨日のアレンの顔が頭をよぎった。

『待つのは嫌いだ』

 理由は分からない。

 ただ、なぜか引っかかった。

「どうした?」

 カイルが聞く。

「何でも――」

 言いかけて止まる。

「禁止でした」

「自分にも適用するのか」

「公平なので」

 リリアは黒い石を見る。

「昨日、アレン先輩にこの話をしました」

 二人の表情が変わった。

「アレンに?」

「はい。十二本って言ったら、明らかに反応しました」

 ルシアンとカイルが視線を交わす。

「何?」

「いや」

「今、二人で何か話しました?」

「目で?」

「そう」

「高度だね」

「誤魔化さないで」

 ルシアンは小さく笑った。

「アレンが何を言った?」

「何も。知らないって」

「嘘だな」

 カイルが即答する。

「ですよね」

「お前には特に下手だからな」

「やっぱり?」

「……」

 カイルがしまったという顔をした。

「クロフォード先輩」

「忘れろ」

「嫌です」

「知ってる」

 まただ。

 リリアは目を細めた。

「今のも変」

「何が」

「私が忘れないの、知ってるみたい」

「お前を見ていれば分かる」

「みんなそれ言う」

「実際そうだろう」

 もっと追及しようとした時だった。

 透明な箱の中で、黒い石が淡く光った。

 三人が同時に黙る。

「下がれ」

 カイルの声が変わる。

 リリアは素直に一歩下がった。

 石の表面。

 十二本の線が、一つずつ赤く染まっていく。

 一つ。

 二つ。

 三つ。

「ルシアン先輩」

「見てる」

 四つ。

 五つ。

 六つ。

 胸の奥がざわつく。

 七つ。

 八つ。

「リリア、もう少し下がって」

 九つ。

 十。

 耳鳴りがした。

 十一。

 そして。

 十二。

 世界が赤く染まった。