魔法より、君に恋をする。

「そういえば」

 歩きながら、リリアが言う。

「手、大丈夫ですか?」

「ああ」

「見せて」

「もう治った」

「見せてください」

「治ったと言ってる」

「確認します」

「リリア」

 名前を呼ばれた。

 足が止まる。

 カイルも止まった。

「……今」

「何だ」

「名前」

「それがどうした」

「初めてじゃない?」

「何が」

「普通に名前で呼ばれたの」

 カイルの表情がわずかに固まった。

 リリアは考える。

 危険な時や、赤い月の幻を見た時には呼ばれた。

 けれど普段はほとんど「アステル」だったはずだ。

「気のせいだ」

「そうかな」

「そうだ」

「じゃあもう一回」

「何を」

「リリアって」

「……」

「先輩?」

「なぜ」

「気になったから」

「断る」

「なんで?」

「必要ない」

「名前なのに?」

「行くぞ」

 逃げた。

 リリアは少しだけ面白くなって、追いかけた。

「クロフォード先輩」

「何だ」

「リリア」

「……」

「呼んで」

「嫌だ」

「ケチ」

「何とでも言え」

 耳が少し赤い。

 この人は意外と分かりやすいのかもしれない。