魔法より、君に恋をする。

しばらくして、話は再び黒い石へ戻った。

「どんな形だった」

 アレンが聞く。

「見たことないんですか?」

「ない。だから聞いてる」

「小さい黒い石です。表面に魔法式みたいな線があって」

「何本だ」

「十二本」

 アレンの指が止まった。

 ほんの一瞬。

 けれど、リリアは見逃さなかった。

「知ってる」

「知らねえ」

「今の反応で?」

「偶然だ」

「下手」

「うるせえ」

「ルシアン先輩よりずっと下手です」

「アイツと比べんな」

「クロフォード先輩よりも下手」

「カイルとも比べんな」

「レオン先輩は本人もよく分かってなさそう」

 アレンが眉を寄せる。

「……レオン?」

「レオンハルト先輩です」

「それは分かってる。呼び方だよ」

「ああ」

「いつ変わった」

「この前」

「なんで」

「本人に言われたから」

「アイツが?」

「中庭では先輩を付けないでほしいって。でも急だったので、レオン先輩で妥協しました」

「……中庭?」

「はい」

「二人で?」

「はい。本読んでました」

 アレンが黙る。

「アレン先輩?」

「……俺の知らねえところで、ずいぶん楽しそうだな」

「楽しかったですよ」

「そういう意味じゃねえ」

「じゃあどういう意味?」

「……」

 アレンは苛立ったように髪を掻き上げた。

「なんで俺には敬語なんだよ」

「先輩だから」

「レオンも先輩だろ」

「レオン先輩にも敬語です」

「名前は短くなった」

「アレン先輩も名前です」

「そうじゃなくて……」

 アレンはしばらく黙り、盛大に息を吐いた。

「もういい」

「良くなさそう」

「リリア」

「はい」

「一回、先輩なしで呼んでみろ」

「アレン?」

 沈黙。

「……」

「アレン?」

「二回言うな」

「なんで?」

「本当に心臓に悪い」

「さっきも言ってた」

「なら覚えろ」

「嫌なんですか?」

 アレンがこちらを見る。

「逆だよ」

 短い答えだった。

 その意味を聞こうとしたが、彼は先に顔を逸らした。

「……もう一回はいい」

「どっち?」

「今はいい!」

 リリアは少し笑った。

「面白い」

「遊んでんだろ」

「ちょっと」

「認めんな!」

 アレンも最後には笑った。

 その笑顔を見た瞬間、リリアは少し嬉しくなる。

 最初に会った時の彼は、いつもどこか怒っているように見えた。

 今も口は悪い。

 すぐ怒る。

 けれど、笑う顔も知っている。

 そう思うと、入学したばかりの頃より少しだけ彼に近づけた気がした。

「何見てんだよ」

「アレン先輩、笑ってる方がいいなと思って」

 笑顔が消えた。

「……リリア」

「何?」

「今日、俺を殺す気?」

「ないです」

「じゃあもう少し発言に気をつけろ」

「褒めただけなのに」

「それが問題なんだよ」