魔法より、君に恋をする。

 結局、アレンは自分用に蜂蜜の焼き菓子も買った。

 二人は校舎裏の石段に並んで座った。

 春の夕方はまだ少し肌寒い。

「一口食べます?」

「いらねえ」

「美味しいですよ」

「知ってる」

 リリアが止まる。

 アレンも止まる。

「……うまそうだから分かるって意味だ」

「今、絶対違った」

「気のせいだ」

「それも禁止候補」

「禁止多すぎんだろ」

 リリアはタルトを一口食べる。

 苺の酸味と甘いクリームがちょうどいい。

「美味しい」

「そりゃ良かったな」

「アレン先輩のも一口ください」

「自分のあるだろ」

「味違うから」

「……ほら」

 アレンが焼き菓子を半分に割る。

「ありがとう」

 食べる。

「こっちも美味しい」

「じゃあ交換するか?」

「いいんですか?」

「半分な」

 リリアはタルトを見る。

「これ、どうやって半分にします?」

「貸せ」

 アレンが容器ごと受け取り、付属の小さなフォークで器用に切り分ける。

 苺まで綺麗に半分になった。

「上手」

「これくらい誰でもできる」

「私なら苺潰す」

「知ってる」

 沈黙。

「……」

「……」

「また」

「想像つくだろ!」

「本当に?」

「リリア見てりゃ分かる」

 リリアは少し瞬いた。

 以前なら「お前」と言っていたところだった。

 最近のアレンは、名前で呼ぶことが増えている。

「アレン先輩」

「何だよ」

「最近、よく名前で呼びますね」

「……悪いか」

「悪くない」

「じゃあいいだろ」

「むしろ、そっちの方が好きです」

 アレンの手からフォークが落ちた。

 石段に乾いた音が響く。

「何が?」

「名前で呼ばれる方」

「……そういう言い方やめろ」

「なんで?」

「心臓に悪い」

「名前が?」

「リリアが言うからだよ」

 リリアは首を傾げた。

「よく分からない」

「分からなくていい」

「それも最近よく言われます」

「言う側の気持ちが分かった」