魔法より、君に恋をする。

 その日の放課後。

 セシルは剣術部へ向かい、ノアは教師に呼び止められた。

 リリアは一人で購買へ寄っていた。

 寮へ帰る前に、甘いものが食べたくなったからだ。

 目の前には、苺のタルトと蜂蜜の焼き菓子。

 どちらも残り一つ。

「……二つ買えばいいのでは?」

 自分で完璧な答えを出しかけた時、横から手が伸びた。

「太るぞ」

「失礼」

 振り向く。

 赤い髪と、二年生を示す蒼の学年色。

「アレン先輩」

「よう」

「女性に言ったら嫌われる言葉ですよ」

「お前――」

 アレンは途中で言葉を止めた。

「……リリアは気にしねえだろ」

「気にはします」

「じゃあ悪かった」

「素直」

「俺だって謝るくらいできる」

 面倒そうに頭を掻きながら、アレンは二つの菓子を見る。

「で、どっちにすんだよ」

「迷ってます」

「苺」

「なんで?」

「そっちの方が好きだろ」

 リリアの手が止まった。

 アレンも止まった。

 二人で顔を見合わせる。

「……」

「……」

「なんで知ってるんですか?」

「勘」

「また?」

「また」

「アレン先輩の勘、私にだけ精度高くないですか?」

「相性いいんじゃねえの」

「そういうもの?」

「知らねえ」

 答えながら、アレンは苺のタルトを取った。

「ほら」

「私の」

「分かってる」

 そのまま会計へ持っていこうとする。

「待って。自分で払います」

「このくらいいいだろ」

「最近みんな私に物を買います」

「みんな?」

「ノアは方位針。セシルはパン」

「……あいつら」

「何?」

「何でもねえ」

「最近、その言葉禁止にしようかと思ってます」

「誰とそんな話してんだよ」

「クロフォード先輩」

「は?」

 アレンの眉が寄った。

「なんでカイルとそんな話になんだよ」

「怪我を治した時」

「怪我?」

「手」

「なんで怪我してんだ、あいつ」

「黒い石の調査で」

 その瞬間。

 アレンの顔から、軽い表情が消えた。

「黒い石?」

 低い声だった。

「知ってます?」

「……どこで聞いた」

「クロフォード先輩から」

「それ、触ったか?」

「直接は触ってません」

「本当だな?」

「はい」

 アレンはリリアの腕を掴みかけた。

 けれど、その手は触れる寸前で止まる。

 指先がわずかに震えていた。

「……ならいい」

「良くなさそうな顔してます」

「いいから、あれには近づくな」

「クロフォード先輩にもルシアン先輩にも似たこと言われました」

「じゃあ言うこと聞け」

「一人では調べない約束はしました」

「一人じゃなきゃいいって話じゃねえだろ」

「でも調べます」

「リリア」

「嫌です」

「まだ何も言ってねえ!」

「止める顔だったから」

 購買の店員がこちらを見る。

 リリアは声を落とした。

「アレン先輩、うるさい」

「……悪い」

 アレンも声を落とす。

 けれど赤い瞳は、少しも笑っていなかった。

「とりあえず買って外出るぞ」

「苺のタルト」

「買うよ!」