魔法より、君に恋をする。

 リリアは困っていた。

「おかしい」

 剣術場へ向かっていたはずだった。

 方位針も持っている。

 今度は逆さではない。

 なのに目の前にあるのは、見たことのない温室だった。

「……剣術場って植物あったっけ」

 ない。

 さすがに分かる。

 戻ろう。

 そう思った時だった。

「きゃっ……!」

 近くから声がした。

 振り向く。

 温室脇の小道で、一人の女子生徒が座り込んでいる。

 足元には割れた植木鉢が散らばっていた。

「大丈夫?」

 リリアは駆け寄る。

「足、怪我した?」

「少しだけ……」

 足首に赤い傷がある。

 深くはない。

「動かないで」

 リリアはしゃがみ込み、傷へ手をかざした。

 淡い光が広がる。

「え……治癒魔法?」

「うん」

「アステルさんって治癒もできるの?」

「一応」

「一応って……」

 傷が塞がっていく。

「これで大丈夫だと思う」

「ありがとう!」

 女子生徒が立ち上がる。

「でも鉢が……」

「片付けるよ」

「そこまでしてもらうの悪いよ」

「一人より二人の方が早い」

 二人で割れた鉢を集める。

 その最中だった。

「リリア!」

 聞き慣れた声が響いた。

 顔を上げる。

 セシルが走ってくる。

「セシル」

「何してるの?」

「鉢片付けてる」

「それは見れば分かるけど」

 セシルはリリアの前まで来ると、一度大きく息を吐いた。

「図書館で待っててって言ったよね?」

「迎えに行こうと思って」

「私が迎えに行くって言ったでしょ」

「でも部活で疲れてると思って」

「……リリア」

 少し怒っている。

「ごめん」

 素直に謝ると、セシルは言葉に詰まった。

「いや……怒りたいわけじゃないんだ」

 それから女子生徒に気づく。

「怪我?」

「もう治してもらったの。アステルさんに」

「そうだったんだ」

 事情を聞くと、セシルの表情が柔らかくなる。

「じゃあ、残りは私たちで片付けようか」

「でも」

「三人ならもっと早いでしょ?」

 結局、三人で片付けた。