魔法より、君に恋をする。

セシル・アルヴェインには、最近一つだけ困っていることがあった。

「セシル」

「ん?」

「今日、部活?」

「あるよ」

「何時まで?」

「いつも通りなら六時くらいかな」

「じゃあ待ってる」

 困っている原因が、目の前にいた。

「……待つ?」

「うん」

 昼休みの教室。

 窓際の席でパンを食べながら、リリアは何でもないことのように言った。

「なんで?」

「一緒に帰ろうと思って」

 セシルは危うく飲んでいた水をこぼしかけた。

「寮は同じなんだから、先に帰ってても会えるよ?」

「でも一緒に帰るのとは違うでしょ」

「……そうだね」

 その通りなのが困る。

「待ってたら駄目?」

「駄目じゃない」

 むしろ嬉しい。

 嬉しいから困っている。

「じゃあ待ってる」

「でも二時間くらいあるよ?」

「図書館で本読んでる」

「迎えに行く」

「なんで?」

「リリア、一人で剣術場まで来られる?」

「来られる」

「この前は?」

「来られた」

「私と一緒だったよね?」

「……」

「迎えに行くね」

「はい」

 リリアが大人しく頷く。

 セシルは笑った。

「素直でよろしい」

「最近みんな私を迷子扱いする」

「扱いじゃなくて事実じゃない?」

「違う」

「方位針を逆さに持って迷ったってノアから聞いたけど」

「言わない約束なのに」

「ノアは約束してないんじゃない?」

「……確かに」

 納得するところもリリアらしい。

 セシルは笑いながらパンを一口食べた。

 するとリリアがこちらを見ている。

「何?」

「セシル、今日機嫌いいね」

「そう?」

「うん」

「……まあ、悪くはないかな」

「良かった」

 そう言って笑われる。

 それだけで、さらに機嫌が良くなった。

 単純すぎる。

 最近の自分は本当にどうかしていると思う。