魔法より、君に恋をする。

 一人になったレオンハルトは、しばらくその場から動かなかった。

「……レオン先輩、か」

 自分で呟く。

 たったそれだけで、どうしてこんなに嬉しいのだろう。

 分からない。

 けれど、彼女に名前を呼ばれた瞬間。

 胸の奥で、何かが強く揺れた。

 嬉しい。

 同時に、苦しい。

 まるでずっと昔にも、同じ声で名前を呼ばれたことがあるような――そんな、ありもしない記憶。

「……まただ」

 胸元を押さえる。

 最近、増えている。

 彼女と話すほど。

 彼女に触れるほど。

 彼女の声を聞くほど。

 知らないはずの何かが、自分の中で少しずつ目を覚ましている。

 怖くないと言えば嘘になる。

 それでも。

『じゃあ私と会わない方がいい?』

 あの時、考えるより先に答えていた。

 嫌だ、と。

 理由なんてまだ分からない。

 過去に何があったのかも知らない。

 それでも今の自分が、彼女とまた会いたいと思っていることだけは、誰かに与えられた記憶ではなかった。

 レオンハルトは小さく笑う。

「次はいつ来るかな」

 その声はもう、《第二王子》のものではなかった。