魔法より、君に恋をする。

 中庭を出る頃には、日が傾き始めていた。

「図書館へ行く?」

「今日は寮に戻ります」

「送ろうか」

「大丈夫です」

「方位針あるから?」

「はい」

「それ、学院の中ではあまり意味ないんじゃなかった?」

「……」

「図星?」

「今日は迷いません」

「じゃあ途中まで」

「心配性」

「君に関しては、みんなそうなると思うよ」

 二人で回廊を歩く。

 人通りの多い場所が近づくにつれ、レオンハルトは自然に襟元を整えた。

 緩めていたタイを直し、上着を羽織る。

 表情まで少しずつ変わっていく。

 さっきまで隣で笑っていた少年が、《第二王子レオンハルト》へ戻っていく。

 リリアはそれを黙って見ていた。

「……何?」

「戻るんだなと思って」

「戻る?」

「王子様に」

 レオンハルトの手が止まった。

「嫌?」

「嫌じゃないです」

「じゃあ?」

 リリアは少し考える。

「もったいない」

「何が?」

「さっきの方がよく笑ってたから」

 レオンハルトは何も言わなかった。

 リリアは続ける。

「でも、どっちもレオン先輩ですよね」

 今度こそ、完全に動きが止まった。

「あ」

 リリアも気づく。

 中庭を出たのに、自然に呼んでしまった。

「今のは」

「待って」

 レオンハルトが遮る。

「戻さないで」

「でも、ここ中庭じゃないです」

「いい」

 少し早口だった。

「そのままでいい」

「……じゃあ、レオン先輩」

「うん」

 青い瞳が嬉しそうに細められる。

「それがいい」

 リリアは不思議に思った。

 呼び方が少し変わっただけだ。

 たった二文字短くなっただけ。

 それなのに、二人の間にあった距離まで少し縮んだような気がした。