魔法より、君に恋をする。

授業が終わったあと、二人はそのまま教室に残った。

 セシルは剣術部へ向かい、他の生徒たちもほとんど帰っている。

 リリアが教科書を鞄へ入れていると、ノアが突然尋ねた。

「リリアは好きな人できたらどうする?」

「分からない」

「告白する?」

「好きなら言うかも」

「……強いなあ」

「なんで?」

「普通はもっと悩むものだよ」

「好きなのに言わないの?」

「相手を困らせるかもしれないし」

「そういうもの?」

「そういうもの」

 リリアは鞄を閉じた。

「ノアは?」

「何が?」

「好きな人いる?」

 ノアの動きが止まった。

 ほんの一瞬だった。

「いるよ」

「そうなんだ」

 意外だった。

 ノアは誰にでも軽い調子で話すので、特定の誰かを本気で好きになる姿があまり想像できなかった。

「どんな人?」

「聞く?」

「聞いたから」

「そうだね……」

 ノアは窓の外を見た。

「綺麗で、強くて、頭が良くて、頑固」

「最後悪口?」

「褒めてる」

「その人に言ったら怒られそう」

「怒るだろうね」

 楽しそうに笑う。

「告白しないの?」

「今はしない」

「なんで?」

「その子自身の気持ちを大事にしたいから」

 リリアはノアを見る。

 いつもの冗談っぽい笑顔とは少し違った。

「僕が好きだからって、相手まで僕を好きになる必要はないでしょ?」

「うん」

「だから、僕の気持ちで答えを急がせたくない」

「……ノアって意外とちゃんとしてるね」

「その感想どうなの?」

「褒めてる」

「今日一番傷ついたかも」

 ノアが机へ突っ伏す。

 リリアは少し笑った。

「でも、いいと思う」

「何が?」

「その考え方」

 ノアが顔を上げる。

「私も、自分で好きになりたいから」

 青い瞳がリリアを見つめた。

「誰かに好かれたから好きになるんじゃなくて、自分でこの人が好きって思いたい」

 ノアは何も言わなかった。

「変?」

「ううん」

 少しして、彼は笑った。

「それでいいと思う」

 いつもの軽い笑顔だった。

 それでも、なぜか少しだけ優しく見えた。

「その方が、僕も嬉しい」

「なんでノアが?」

「一般論」

「怪しい」

「最近疑われすぎじゃない?」

「みんな怪しいから」

「僕も?」

「少し」

「少しならいいか」

 ノアは笑って立ち上がった。

「帰ろう」

「うん」