魔法より、君に恋をする。

 治療を終え、演習室を出る頃には外が暗くなり始めていた。

「寮まで送る」

「一人で帰れます」

「迷う」

「方位針あります」

「今日おかしくなっただろ」

「今は戻ってます」

「信用できない」

「私と方位針、どっちが?」

「両方」

「失礼」

 結局、二人で女子寮へ向かうことになった。

 校舎を出る。

 夕暮れの空には、まだ淡い月が浮かんでいた。

 白い。

 普通の月だ。

 それなのに、先ほど見た光景が頭から離れない。

「クロフォード先輩」

「何だ」

「月って、赤くなることありますか?」

 隣を歩いていたカイルの足が止まった。

 リリアも止まる。

「普通の話です。月食とか、魔力現象とか」

「……ある」

「そうなんだ」

「だが」

 カイルは空を見上げた。

「お前が見たものは、それじゃない」

 リリアは彼を見る。

「じゃあ何ですか?」

 カイルはしばらく答えなかった。

 やがて視線を戻し、リリアを見る。

「俺が二度と見たくないものだ」

 それ以上は何も言わなかった。

 リリアも聞かなかった。

 ただ、その言葉だけは覚えておこうと思った。