魔法より、君に恋をする。

しかし、放課後を待つ必要はなかった。

 三限目の魔法実技が終わり、教室へ戻る途中だった。

 北棟へ続く廊下の前に、教師が数人集まっている。

「何かあったのかな」

 ノアが足を止める。

 廊下の入口には簡易的な封鎖術式が張られ、生徒が入れないようになっていた。

「昨日まではなかったよな」

 セシルも眉を寄せる。

 リリアは制服のポケットに手を入れた。

 方位針を取り出す。

 針が震えている。

「……ここだ」

「え?」

「朝と同じ」

 封鎖された廊下の奥を指している。

 三人の表情が変わった。

「リリア」

「ちょっと見るだけ」

「駄目だって」

「でも――」

「アステル」

 背後から低い声がした。

 振り向く。

 黒髪の青年が立っていた。

 三年生を示す深紅の徽章。

「クロフォード先輩」

 カイルは三人の前まで来ると、リリアの手にある方位針を見た。

 その瞬間、目つきが変わった。

「それをしまえ」

「どうしてですか?」

「いいから」

「理由は?」

「アステル」

「理由を言ってくれないなら嫌です」

 カイルの眉間に皺が寄る。

 セシルが小さく息を吐いた。

「このやり取り、前にもあったな」

「リリアは理由なしじゃ絶対動かないよ」

 ノアも苦笑する。

 カイルは二人を見て、それから再びリリアへ視線を戻した。

 しばらく黙ったあと、短く息を吐く。

「……分かった」

 以前なら、ここで無理にでも遠ざけようとしていただろう。

「この先で、正体不明の魔力反応が見つかった」

「何があったんですか?」

「まだ調査中だ」

「危険?」

「可能性はある」

「それがこの方位針に反応してる?」

「おそらく」

 リリアは少し驚いた。

「今日はちゃんと教えてくれるんですね」

「……前に怒られたからな」

 カイルがぼそりと言う。

 リリアは瞬いた。

「覚えてたんですか?」

「忘れると思うか?」

「ちょっと意外」

「お前は俺を何だと思ってる」

「怖い先輩」

「まだ怖いのか」

「最初よりは」

「そうか」

 わずかに落ち込んだように見えた。

「でも、優しいのは知ってます」

 カイルが黙る。

「……そうか」

 今度は少しだけ声が柔らかかった。

 ノアとセシルが何とも言えない顔で二人を見ている。

「何?」

「別に」

「何でもないよ」

 まただ。