魔法より、君に恋をする。

休日が明けた月曜日、リリアは朝から上機嫌だった。

「見て」

 教室へ入ってきたセシルを呼び止め、掌に乗せた銀色の方位針を見せる。

「ちゃんと持ってきたんだな」

「大事にするって言ったから」

「それはいいけど、使えてるのか?」

「もちろん」

「今日は迷わなかった?」

「迷ってない」

「寮から教室まで?」

「うん」

「方位針いらないだろ」

 言われてみればそうだった。

「練習」

「何の?」

「本番に備えて」

「迷子になる本番って何だよ」

 セシルが笑いながら隣の席へ鞄を置く。

 少し遅れてやってきたノアも、リリアの手元を見て嬉しそうに目を細めた。

「使ってくれてるんだ」

「うん」

「どう?」

「便利」

「良かった」

「まだ寮から教室までしか使ってないけど」

「……そこ、迷わないよね?」

「セシルにも言われた」

「だよね」

 ノアは笑いながら自分の席へ座った。

「でも、ちゃんと持っててよ。せっかくあげたんだから」

「持ってるよ」

 リリアは方位針を制服のポケットへ戻す。

 その時だった。

 小さく、針が震えた。

「……?」

 もう一度取り出す。

 銀色の針が細かく揺れている。

「どうした?」

 セシルが覗き込む。

「壊れたかも」

「昨日買ったばっかりだよ!?」

 ノアが悲しそうな声を出した。

「何もしてない」

「リリアが言うとちょっと怖いな」

「失礼」

 掌の上で、針がゆっくり回る。

 学院の方角を示すよう登録したはずなのに、今は教室の窓側を指していた。

「……こっち?」

 リリアが窓を見る。

 その向こうには、中庭と別棟が見える。

「魔力に反応してるのかな」

「方位針が?」

「これ、場所そのものじゃなくて登録した魔力を追うんだよね?」

 ノアが頷く。

「そうだけど」

「じゃあ、学院の魔力より強い何かに引っ張られてるのかも」

「そんなことある?」

「分からない」

 リリアは方位針を見つめた。

 震えは数秒で収まった。

 針も元の方向へ戻る。

「……放課後、見に行く」

「駄目」

 セシルとノアの声が同時に重なった。

「なんで?」

「なんでじゃない」

「絶対何か変なもの見つけるでしょ」

「だから見に行くんだけど」

「そう言うと思った」

 セシルが額を押さえた。

「せめて一人で行くな」

「じゃあ一緒に来る?」

「行く」

「僕も」

「決まり」

 リリアは満足して方位針をしまった。

 どうして二人が疲れたような顔をしているのかは分からなかった。