魔法より、君に恋をする。

剣術部の練習が終わり、二人で寮へ戻る頃には空が薄い橙色に染まっていた。

「そういえば」

 歩きながら、リリアが口を開く。

「昼に雑誌見た」

「何の?」

「学院の人気者が載ってるやつ」

「ああ。あれか」

「セシルもそのうち載りそう」

「絶対嫌だ」

「似合うと思うけど」

「何が?」

「王子様特集」

「私は女だぞ」

「女の王子様」

「……」

 セシルが黙る。

「みんなも格好いいって言ってた」

「みんな?」

「クラスの子たち」

「お前は?」

「格好いいと思うよ」

 リリアは普通に答えた。

 セシルは前を向いたまま、しばらく何も言わなかった。

「……昼の話だけど」

「恋愛?」

「ああ」

 セシルは歩調を少し緩めた。

「男が好きじゃないと駄目だと思ってる?」

 リリアは質問の意味を考えた。

「別に」

「即答だな」

「好きになった人が女の子なら、女の子が好きってことでしょ?」

 セシルの足が止まった。

 リリアも振り返る。

「どうしたの?」

「いや」

 セシルは何かを言いかけて、やめた。

「……そっか」

 それだけ言って、再び歩き始める。

「セシル?」

「何でもない」

「今日それ多くない?」

「お前のせいだ」

「私?」

「そう」

「何した?」

「何もしてないから厄介なんだよ」

 意味が分からないまま、リリアは隣へ並んだ。

 しばらく歩いたところで、セシルが手を差し出す。

「ほら」

「何?」

「迷子対策」

「寮まで一本道だよ」

「……じゃあ、嫌ならいい」

 手が引っ込む前に、リリアは掴んだ。

「嫌とは言ってない」

 セシルがこちらを見る。

「セシルと手繋ぐの好きだよ」

「……」

「どうしたの?」

「リリア」

「うん」

「今日はもう喋るな」

「なんで?」

「私の心臓がもたない」

「具合悪い?」

「そういう意味じゃない」

 セシルは困ったように笑った。

 繋いだ手だけは離さない。

 リリアは昼休みの話を思い出す。

 会いたくなる。

 触れたい。

 特別扱いされると嬉しい。

 それだけなら、確かにセシルにも当てはまる。

 けれどノアにも当てはまるし、他の人たちのことだって気になる。

 やっぱり、まだ分からない。

 ただ一つだけ確かなのは、誰かに「この人を好きになるべきだ」と決められるのは嫌だということだった。

 もし、いつか誰かを恋愛として好きになる日が来るのなら、その時は自分で分かりたい。

 相手が誰であっても。

 リリアはそんなことを考えながら、セシルの手を握ったまま夕暮れの道を歩いた。