魔法より、君に恋をする。

 午後の授業を終え、リリアが一人で教室を出た時だった。

 廊下の向こうから慌ただしい足音が聞こえてきた。

「危ない!」

 誰かが叫ぶ。

 振り向いた瞬間、荷物を抱えた男子生徒がこちらへ転び込んできた。

 床に落ちたのは、実技授業で使う魔石だった。

 それだけなら問題はなかった。

 けれど一つだけ、表面に亀裂が入っている。

 魔力が漏れていた。

「離れろ!」

 教師の声が響く。

 次の瞬間、魔石が赤く発光した。

 リリアは反射的に手を伸ばした。

 魔力を覆えば抑えられる。

 そう判断した。

 けれど術式を組むより先に、身体を強く引かれた。

「――っ!」

 視界が反転する。

 背中に腕が回り、そのまま床へ倒れ込んだ。

 直後、激しい破裂音が響く。

 魔力の衝撃が廊下を走った。

 リリアは目を開けた。

 自分の上に、赤い髪が見える。

「……アレン先輩?」

「動くな」

 低い声だった。

 アレンが覆いかぶさるようにして、リリアを庇っていた。

「先輩」

「怪我は?」

「ないです」

「本当に?」

「はい」

 答えると、アレンはようやく身体を起こした。

 教師たちが破損した魔石を処理している。幸い爆発そのものは小さく、周囲の生徒にも大きな怪我はなさそうだった。

「アレン先輩は?」

「平気だ」

「腕」

「何でもねえ」

「血出てます」

 制服の袖が裂け、腕に細い傷ができている。

「これくらい傷に入らねえよ」

「入ります」

「ほっとけ」

「嫌です」

「お前な」

「治療室行きます」

「いらねえって」

「行きます」

「俺の話聞け!」

「聞いた上で無視してます」

「最悪だなお前!」

 リリアはアレンの手首を掴んだ。

「ほら」

「引っ張んな!」

「逃げるからです」

「逃げねえ!」

「じゃあ歩いてください」

 周囲の生徒たちが唖然と二人を見ていたが、リリアは気にしなかった。