魔法より、君に恋をする。

レオンハルトと中庭で話した翌朝、リリアは教室へ入った瞬間から妙な視線を感じていた。

 自分が注目されること自体には、入学してから随分慣れた。廊下を歩けば振り返られるし、授業で魔法を使えば見物人が増える。最初こそ居心地が悪かったものの、最近ではいちいち気にする方が面倒になっている。

 けれど今日の視線は、いつものそれとは違った。

「……何?」

 席に着いたリリアは、隣からこちらを見ているノアへ顔を向けた。

 ノアは頬杖をつき、いつもの人懐っこい笑みを浮かべている。

「何が?」

「ずっと見てる」

「見てたね」

「なんで?」

「昨日、レオンハルト殿下と二人でいたんだって?」

 リリアの手が止まった。

「なんで知ってるの?」

「学院って噂が広がるの早いよね」

「また?」

 魔力同調の授業でレオンハルトと組んだことならともかく、その後に中庭で話していたことまで知られているらしい。

「私、監視されてる?」

「それだけ目立つってことじゃない?」

「嫌だ」

「僕は面白いけど」

「他人事だからでしょ」

「他人事でもないんだけどなあ」

 ノアは笑ったまま呟いた。

「それで、二人で何してたの?」

「話してた」

「どんな?」

「先輩が疲れてたから、休んだ方がいいって」

「へえ」

「あと図書館まで送ってもらった」

「へえ」

「……ノア」

「ん?」

「機嫌悪い?」

「まさか」

「悪そう」

「僕、笑ってるよ?」

「笑ってても機嫌悪い人はいるでしょ」

 昨日、レオンハルトにも似たようなことを言った。

 何気なく返しただけだったのに、ノアの笑顔がほんの一瞬だけ止まった。

「……そういうの、分かるんだ」

「何が?」

「ううん。何でもない」

「最近みんなそれ言う」

「みんな?」

「レオンハルト先輩とか」

「また殿下」

「ほら、やっぱり機嫌悪い」

「悪くないって」

 ノアは笑いながら机に突っ伏した。

「ただ、ちょっと羨ましいだけ」

「何が?」

「二人きりだったのが」

「私たちもよく二人になるでしょ」

「そうなんだけどね」

「じゃあ同じじゃない?」

「リリアにとってはね」

 顔だけをこちらへ向ける。

「僕にとっては、ちょっと違う」

「どう違うの?」

「それを説明すると、僕が困る」

「じゃあ聞かない」

「そこはもう少し興味持ってくれてもいいんじゃない?」

「どっち?」

 ノアが困ったように笑った。

「リリアってさ」

「うん」

「僕のこと、ちゃんと男だと思ってる?」

 リリアは眉を寄せた。

「男でしょ?」

「良かった」

「何の確認?」

「重要な確認」

「変なの」

「結構真剣なんだけどなあ」

 その時、教室の扉が開いた。

「おはよう」

 セシルが入ってくる。

 今日も女子生徒たちから次々と挨拶され、そのたびに自然に返している。すっかり《白銀の王子》という呼び名が定着してしまったらしい。

「おはよう、セシル」

「おはよう。……ノアは朝から何してるんだ?」

「傷ついてる」

「なんで?」

「リリアが僕を男として意識してくれないから」

「そんなこと言ってない」

「似たようなものだよ」

 セシルは一秒ほどノアを見たあと、その肩を軽く叩いた。

「頑張れ」

「雑じゃない?」

「私にどうしろって言うんだ」

「もう少し真剣に慰めてくれてもいいと思う」

「嫌だよ」

 ノアが顔を上げる。

「セシルって僕に冷たくない?」

「気のせいだ」

「リリアには優しいのに」

「当たり前だろ」

「……へえ」

「何だよ」

「別に?」

 二人が妙な目で見つめ合う。

 リリアはその間で教科書を取り出した。

「二人って仲良いよね」

「どこが?」

「どこが?」

 綺麗に重なった。

「そういうところ」