魔法より、君に恋をする。

図書館までの道は、驚くほど近かった。

「……五分」

「そうだね」

「私、二十分歩いたのに」

「かなり綺麗に逆方向へ進んだみたいだね」

「地図がおかしい」

「今日は地図持ってないよね?」

「学院の造りがおかしい」

「絶対に自分のせいにはしないんだ」

「方向感覚には自信があります」

「どこから来るの、その自信」

 話しながら歩いていると、あっという間に図書館へ着いた。

 入口の前でリリアは振り返る。

「ありがとうございました」

「どういたしまして」

「レオンハルト先輩も、ちゃんと休んでくださいね」

「うん」

「王子様じゃない時も必要だと思います」

 レオンハルトは少し目を見開いた。

「……そうだね」

「じゃあ、また」

「リリア」

 呼び止められる。

「はい?」

「また迷ったら、あの中庭に来てもいいよ」

「迷わないと行っちゃ駄目なんですか?」

 予想外の返答だったのか、レオンハルトが一瞬固まる。

「……いや」

「じゃあ普通に行きます」

「そうして」

 レオンハルトは笑った。

 今度は、リリアが気に入った方の笑顔だった。

「またね、リリア」

「また明日、レオンハルト先輩」

 リリアが図書館へ入っていく。

 扉が閉まっても、レオンハルトはしばらくその場から動かなかった。

 今日初めて触れたはずの手も、初めて感じたはずの魔力も、初めて二人で過ごしたはずの時間も、なぜか胸の奥に馴染んでいる。

 その理由は分からない。

 ただ、先ほど交わした約束だけは不思議なほど大切に思えた。

 何かを思い出したら、彼女に伝える。

「……約束、か」

 その言葉を口にした瞬間、胸の奥がかすかに痛んだ。

 レオンハルトは理由の分からない感覚に眉を寄せたが、答えはどこにもなかった。