魔法より、君に恋をする。

 寮の前には。

「遅い」

 セシルがいた。

「今日二回目」

 リリアが言う。

「何が?」

「遅いって言われた」

「誰に?」

「アレン先輩」

「会ったの?」

「うん。ルシアン先輩にも会った。クロフォード先輩が送ってくれた」

「……今日すごいね」

「人気らしい」

「自分で言うんだ」

「クロフォード先輩否定しなかった」

「余計なことを言うな」

 カイルが眉を寄せる。

 セシルは笑った。

「ありがとうございます、クロフォード先輩」

「ああ」

「ここからは私が」

「頼む」

「私、一人でも帰れる」

「今日だけは駄目」

 二人に同時に言われる。

「……はい」

 カイルが去っていく。

 その背中を見送ってから、セシルがリリアを見る。

「少し歩く?」

「寮入らないの?」

「まだ夕食まで時間あるし」

「いいよ」

 二人で寮の庭を歩く。

 春の花が咲いている。

「セシル」

「何?」

「今日みんな、私に私だって言う」

「そりゃ言うでしょ」

「なんか変」

「嫌?」

「嫌じゃない」

「じゃあいいんじゃない?」

「うん」

 少し歩く。

「でも」

「うん」

「セシルが一番簡単だった」

「何が?」

「私が誰でもいいみたいだった」

 セシルが足を止める。

「誰でもいいわけじゃないよ」

「違う?」

「全然違う」

 リリアも止まる。

 セシルは少し困ったように笑った。

「名前が何でもいいだけ」

「名前?」

「リリアって名前じゃなくても、貴族じゃなくても、魔法がこんなに強くなくても」

 灰青の瞳が、リリアだけを見る。

「あなたじゃなきゃ嫌だよ」

 胸が跳ねた。

「……」

「あ」

 セシルの顔が少し赤くなる。

「今の、ちょっと変だったかな」

「分からない」

「忘れて」

「嫌」

「即答?」

「今ちょっと嬉しかった」

「……そっか」

 セシルが視線を逸らす。

「じゃあ、忘れなくていい」

「うん」

 また歩き出す。

 肩が時々触れる。

 リリアはふと、セシルの手を見る。

「繋ぐ?」

「え?」

「今日まだ繋いでない」

「そういう基準なの?」

「嫌?」

「……嫌じゃない」

 セシルが手を差し出す。

 リリアが握る。

 慣れた温度。

「落ち着く」

 リリアが言う。

「……そういうこと、簡単に言わないで」

「なんで?」

「困るから」

「みんな困る」

「たぶん理由は同じじゃないかな」

「そうなの?」

「そのうち分かるよ」

「またそのうち」

「ごめん」

 セシルが笑った。