魔法より、君に恋をする。

「遅い」

 演習場へ着くなり、アレンが言った。

「間に合ってる」

 リリアが答える。

「あと三分だぞ」

「三分ある」

「お前は毎回ぎりぎり――」

 そこでアレンの視線が下がった。

 リリアとカイルの手。

「……」

 カイルも気づいた。

 リリアも気づいた。

「何?」

「何で手繋いでんだよ」

「転ばないように」

「昨日俺と普通に歩けてただろ!」

「昨日も繋いだ」

「そうじゃねえ!」

 ノアが後ろから顔を出した。

「何の騒ぎ?」

 視線が下がる。

「……あ」

 セシルも来た。

「あ」

 最後にレオンハルト。

「なるほど」

「何が?」

 リリアだけが分かっていない。

「クロフォード先輩」

 ノアが笑顔で言う。

「そろそろ離してもいいんじゃないですか?」

「……」

「演習場着きましたよ」

 カイルが黙って手を離す。

「何で離したの?」

「着いたからだ」

「そっか」

 リリアは納得した。

 アレンは納得していなかった。

「お前、絶対分かってやってるだろ」

「何を?」

「……もういい!」

「最近みんなそれ言う」

 セシルが笑った。

「リリアが強すぎるんだよ」

「魔法?」

「違う方」

「?」

 ルシアンが高台から降りてくる。

「楽しそうだね」

「ルシアン先輩」

「はい?」

「私、強いらしいです」

「知ってるよ」

「魔法じゃない方」

「……ああ」

 ルシアンは六人を見回した。

「それも知ってる」

「何?」

「知らなくていいんじゃないかな。今は」

「また秘密」

「これは知らない方が面白い」

「先輩が?」

「僕が」

「ずるい」

 ルシアンは笑った。

「さて。遊びはここまで」

 手にしていた紙を広げる。

「春季実戦祭、一日目の対戦表が正式に出た」

 空気が変わった。

 六人が集まる。

「第十三部隊の初戦は、午前第二試合」

「相手は?」

 レオンハルトが尋ねる。

「第二部隊」

 アレンの表情が変わった。

「……マジかよ」

「強い?」

 リリアが聞く。

「強いどころじゃねえ」

 アレンが答える。

「去年の上位経験者が三人いる」

「面白そう」

「お前は本当にそればっかだな」

 ルシアンが紙を指で叩いた。

「しかも、初日の形式も決まった」

「結晶?」

「違う」

 全員が彼を見る。

「救出戦だ」

「救出?」

「制限時間三十分。広域演習区画内に配置された三体の救助対象を確保し、指定地点まで運ぶ。敵部隊への攻撃は許可。ただし、救助対象への攻撃は即失格」

 リリアは少し考える。

「敵倒さなくても勝てる?」

「そう」

「救助対象を多く運べば?」

「基本点はそう。ただし途中に複数の仕掛けがある。詳細は当日まで非公開」

「楽しそう」

「遊びじゃないよ」

「分かってます」

「顔が完全に遊びに行く顔なんだよなあ」

 ノアが笑う。

 ルシアンは紙を畳んだ。

「あと五日」

 六人を見る。

「ここからは、単純な強さより判断力と連携を詰める」

「勝てますか?」

 セシルが尋ねる。

 ルシアンは少しだけ笑った。

「それを僕に聞く?」

「監督生なので」

「そうだね」

 ルシアンは第十三部隊を見渡した。

「今の君たちなら、勝てる可能性は十分にある」

「可能性」

 リリアが繰り返す。

「絶対とは言わないよ」

「じゃあ」

 リリアは杖を取り出した。

「絶対にする」

 アレンが笑った。

「言うと思った」

 カイルも剣へ手をかける。

 ノアが肩を竦める。

「こうなると止まらないよね」

「止める必要ないでしょ」

 セシルが剣を抜いた。

 レオンハルトも笑う。

「そうだね。僕もそのつもりだ」

 六人が演習場へ向かう。

 ルシアンはその背中を見送った。

 五日後。

 春季実戦祭。

 十三という数字。

 地下の術式。

 黒い羽。

 そして、昨夜リリアが見たという黒い光。

 不安材料はいくらでもある。

 それでも。

 今の彼らなら。

 以前とは違う選択ができるかもしれない。

「……さて」

 ルシアンは眼鏡を押し上げた。

「監督生らしく働こうかな」