魔法より、君に恋をする。

春季実戦祭まで、あと五日。

 学院全体が、目に見えて騒がしくなっていた。

 廊下には部隊表が貼り出され、演習場は朝から夕方まで予約で埋まり、食堂ではどの部隊が強いだの、誰と誰の相性がいいだの、そんな話ばかりが飛び交っている。

 第十三部隊も例外ではない。

 むしろ、例外どころか。

「また見られてる」

 昼休み。

 食堂の中央で、リリアはスープを飲みながら言った。

「そりゃ見るでしょ」

 向かいのノアがパンをちぎる。

「第十三部隊、優勝候補扱いされてるから」

「まだ一回も戦ってない」

「期待ってそういうものだよ」

「嫌だ」

「注目されるの?」

「うん」

「入学式からずっと注目されてるのに?」

「慣れない」

「美人も大変だねえ」

「ノアも見られてる」

「僕は歓迎」

「違いが分からない」

 隣でセシルが笑った。

「リリアは自分に向けられる視線を気にしないようで、意外と気にするよね」

「見られる理由が分からない時が嫌」

「今は分かる?」

「実戦祭」

「じゃあ平気?」

「ちょっと嫌」

「結局嫌なんだ」

 セシルが楽しそうに笑う。

 その時、食堂の入口がざわついた。

「今度は何?」

 リリアが顔を上げる。

 黒髪。

 深紅の学年色。

 長身。

 カイルだった。

「クロフォード先輩」

 呼ぶと、彼はすぐにこちらを見た。

 そして真っ直ぐ歩いてくる。

 周囲がさりげなく道を空けた。

「怖がられてる」

 リリアが言う。

「聞こえてる」

「本当のこと」

「お前はもう少し声量を考えろ」

「普通に喋った」

「普通でそれか」

 カイルは呆れたように息を吐いた。

「何しに来たの?」

「お前に用がある」

「私?」

「ああ」

 ノアがにっこり笑う。

「何の用ですか、カイル先輩」

「なぜお前が聞く」

「気になるから」

「関係ない」

「冷たいなあ」

 カイルはノアを完全に無視し、リリアを見る。

「放課後、時間はあるか」

「合同訓練までなら」

「一時間程度でいい」

「何するの?」

「前に言っただろ」

 リリアは考える。

「猫?」

「違う」

「訓練?」

「違う」

「何?」

 カイルの眉間に皺が寄る。

「甘いもの」

「あ」

 思い出した。

「食べる約束」

「そうだ」

「行く」

 即答すると、カイルが一瞬だけ黙った。

「……そうか」

「忘れてた?」

「忘れてない」

「じゃあなんで驚いたの?」

「驚いてない」

「今ちょっと止まった」

「気のせいだ」

 ノアが机に頬杖をつく。

「へえ。二人で甘いもの」

「ノアも昨日食べたでしょ」

「そうだけど」

「じゃあいいじゃん」

「そういう問題かなあ」

「違うの?」

「……いや、もういいや」

 セシルがノアの肩を軽く叩いた。

「頑張って」

「何を?」

「色々」

「セシルまでそっち側?」

「どっち側かは分からないけど」

 リリアは二人を見た。

「変なの」

「リリアが言う?」

 声が揃った。